ALK融合遺伝子は肺腺癌の3-5%に見出される遺伝子異常で、これを有する症例では分子標的治療薬の効果が高率に期待できる。この遺伝子異常は若年非喫煙者に高頻度にみられるものの、その生成メカニズムについての詳細は不明である。われわれはALK融合遺伝子陽性及び陰性肺腺癌におけるゲノム不安定性の比較を全ゲノムにわたるコピー数変化の詳細な検出が可能なCopy number analyzer for GeneChip (CNAG)を用いて解析を行い、融合遺伝子の有無によるゲノム数変化の比較を行った。ALK融合遺伝子陽性例35例、陰性例95例の外科切除例を対象とした。解析の結果、染色体全体における染色体腕レベルでの変化はALK融合遺伝子の有無によって違いはなかった。しかしながら既知の癌遺伝子を含む領域でのコピー数変化(gain)はALK融合遺伝子陽性肺癌において、有意に頻度が低かった。同様に癌抑制遺伝子を含む領域でのコピー変化(loss)はALK融合遺伝子陽性肺癌において有意に低かった。ALKおよびEML4を含む2番染色体短腕においては35例中10例(28.5%)に頻回のコピー数変化がみられ、ALK融合遺伝子陰性例では0%(0/95)であった。同様の変化は細胞株による解析でも証明された。コピー数変化の有無に基づく2群間で年齢、性別、喫煙の有無、腺癌分化度、病理病期、静脈・リンパ管侵襲の有無について有意差はみられなかった。繰り返し起こるコピー数変化からは、ゲノムの断片化と再構成が起こっていることが示唆され、いわゆるchromothripsisがALK融合遺伝子陽性例の一部に関与していると考えられる。
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