研究課題/領域番号 |
26430150
|
研究機関 | 静岡県立静岡がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
大島 啓一 静岡県立静岡がんセンター(研究所), その他部局等, その他 (10399587)
|
研究分担者 |
寺島 雅典 静岡県立静岡がんセンター(研究所), その他部局等, その他 (40197794)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 腫瘍マーカー / プロホルモン変換酵素 / ELISA / プロテオミクス / プロテオーム / エクソーム / トランスクリプトーム |
研究実績の概要 |
がんの診断学では、血中腫瘍マーカーの開発はその簡便性や低浸潤性により多大な期待感がある。本研究では、血中に分泌され、かつ安定的に存在し、ELISAで定量可能な新規腫瘍マーカーとなる物質を見出すことを目標に、生理活性ペプチド前駆体タンパク質を標的として探索を行うことを計画した。本計画の背景には、申請者らにより見出された小細胞肺癌に対する腫瘍マーカー候補物質であるニューロテンシン前駆体(proneurotensin/proneuromedin N, proNT/NMN)、ならびに既存の腫瘍マーカーであるガストリン放出ペプチド前駆体(progastrin-releasing peptide, proGRP)の存在がある。生理活性ペプチドは、前駆体タンパク質がプロセシングを受けることにより生じるが、その過程にプロホルモン変換酵素群(prohormone convertasesまたはproprotein convertases, PCs)の関与が示唆されている。こうした経緯から、本研究では、9つあるPCsの働きの違いにより、proNT/NMNやproGRPのような前駆体タンパク質が腫瘍特異的に血中に存在するのではないかと考え、PCsの活性を指標に、プロテオミクスを基盤技術として、腫瘍マーカー候補となる前駆体タンパク質を見出すことを計画した。具体的には、①小細胞肺癌をはじめとした各種がん細胞株におけるPCsの遺伝子発現や配列解析、②proNT/NMN放出細胞株におけるPCs活性を基にした培養細胞上清液中の生理活性ペプチド前駆体タンパク質解析、③候補タンパク質に対するELISA系の確立、④マウスXenograftモデル血中における候補タンパク質の安定性の検討である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、血中に分泌され、かつ安定的に存在し、ELISAで定量可能な新規腫瘍マーカーとなる物質を見出すことを目標に、生理活性ペプチド前駆体タンパク質とそのプロセシングに関わるプロホルモン変換酵素群(PCs)の活性に注目し、①ニューロテンシン前駆体(proNT/NMN)放出小細胞肺癌をはじめとした各種がん細胞株におけるPCsの遺伝子発現や配列解析、②proNT/NMN放出細胞株におけるPCs活性を基にした培養細胞上清液中の生理活性ペプチド前駆体タンパク質解析、③候補タンパク質に対するELISA系の確立、④マウスXenograftモデル血中における候補タンパク質の安定性の検討を計画した。平成26年度では次の3つの計画を予定した。 1) PCs活性とproNT/NMN細胞外分泌性との相関関係の解明:proNT/NMN細胞外分泌性が明らかな小細胞肺癌細胞株6株(陽性・陰性各3株)について、PCs遺伝子の発現状態と変異の有無を公共データベース上で検索した。また、細胞株からRNAを抽出し、実際に発現状態と配列解析を行った。 2)他のがん細胞株における細胞内のPCs遺伝子発現及び配列の検討:本検討項目では小細胞肺癌細胞に加えて、他の臓器がんにおける分泌型前駆体タンパク質を見出す目的で、消化器がん(膵がん、胃がん、大腸がん)を中心とした細胞株に対するPCs遺伝子の発現及び配列を明らかにすることである。本年度では公共データベース上の検索に留まり、実際の細胞株における確認は着手できなかった。 3)培養上清に分泌されるタンパク質のプロテオーム解析:本年度は、上記の検討項目1)及び2)の分析に時間を費やし、特に検討項目2)の計画が遂行中であったため、本検討項目であるがん細胞株の培養上清液画分のプロテオーム解析に着手できなかった。 以上を踏まえ、本年度における達成度は、「やや遅れている」状況である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度では、小細胞肺癌細胞株6種、ならびに消化器がんを中心とした他のがん細胞株におけるプロホルモン変換酵素群(PCs)9種の活性、すなわち発現及び遺伝子変異の状態について、公共データベース(DB)上での検索、さらに一部の細胞株で実験的確証を行った。一方、ニューロテンシン前駆体(proNT/NMN)の細胞外分泌性に関しては、小細胞肺癌細胞株6種に対しては既に情報が得られているものの、その他の細胞株については、遺伝子発現の状態とともに、不明な細胞株がある。それ故、平成26年度ではプロテオーム解析に着手できなかった。以上の経緯を踏まえ、次年度(平成27年度)では、以下に示す3つの目標に向かう。 第一目標は、平成26年度では不完全な情報であったがん細胞株におけるPCs の発現及び遺伝子変異の状態を確定することである。具体的には、公共DBのデータに加えて、実際の細胞株における発現と変異状態を明らかにする。第二の目標は、細胞株におけるproNT/NMNの細胞外分泌性の状態を確定することである。すなわち、公共DB及び実験データによる遺伝子発現の情報を用いて、がん細胞株におけるproNT/NMN細胞外分泌を明らかにした後、その結果にPCsの発現・変異結果を加味した結果をproNT/NMN細胞分泌陽性である小細胞肺癌細胞株におけるPCsの発現・変異状態と比較することにより、プロテオーム実験に供する細胞株を決定する。第三の目標は、がん細胞の培養上清中に分泌されるタンパク質のプロテオーム解析を開始することである。具体的には、PCs及びproNT/NMN細胞外分泌の結果を基に絞り込んだがん細胞株について培養上清液を回収し、申請者らの基盤技術であるHPLCと質量分析によるプロテオミクス同定手法に準じ、培養上清液画分に含まれるタンパク質のオミックス解析(プロテオーム解析)を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度(平成26年度)では、がん細胞株におけるプロホルモン変換酵素群(PCs) 遺伝子の発現及び変異解析、ならびにニューロテンシン前駆体(proNT/NMN)の細胞外分泌性解析に対して、当初の計画より「遅れ」が生じた結果、遺伝子発現や配列解析実験ならび培養細胞を用いた実験に対して十分に遂行できなかったこと、さらにプロテオーム解析の実験に着手できなかった結果、それらの実験に関わる費用を次年度(平成27年度)に持ち越すことになってしまった。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度(平成27年度)では、上述した本年度(平成26年度)に目標を達成できなかった遺伝子発現及び配列解析実験、ならびに培養細胞実験を年度前半に行う計画である。その後、プロテオーム解析に用いる細胞株の絞り込みを行い、年度後半に実験に着手する計画である。次年度は、計画当初、プロテオーム解析が主体となっており、現在、計画に「やや遅れ」生じているものの、年度内に主実験を開始する予定である。従って、研究費の請求は、タンパク質の解析に関連するものに加えて、本年度から持ち越すことになった遺伝子分析関連の消耗品に対して行う。また、当初の計画通り、学会誌への論文投稿用費用として、論文校閲費、論文掲載費及び論文別刷費、加えて、国内学会における発表に対する出張費を申請する。
|