本研究では、昨年度までに、がん患者血清中、健常人血清中のO型糖鎖のプロファイリングを作成し、HPLC上のピークをがん患者、健常者間で比較して、糖鎖腫瘍マーカー候補の探索を行ってきた。その結果、3種類の糖鎖腫瘍マーカー候補を検出し、それらの詳細な構造も明らかにした。さらに、これらのマーカー候補の血清中の濃度を、高精度、高感度に測定するために、質量分析法のSelected Reaction Monitoring法(SRM法)で、特に安定同位体標識した内部標準を用いる方法を確立した。 3候補中の一つはCA19-9に関連すると考えられる糖鎖で、core1構造にsialyl Lewis A構造が付加されたもの、core1 sialyl Lewis A(C1SLAと略す)であった。今年度は、多検体を用いたC1SLAのverification studyを実施した。胃癌患者146名、膵臓癌患者65名、大腸癌患者101名、及び健常者194名の血清を使い、我々が独自に開発したSRM法にて、C1SLAの血清中濃度を測定し、比較検討した。その結果、進行胃癌(p<0.01)及び膵臓癌患者(p<0.0001)の血清では、健常者に比して有意にC1SLAは上昇していた。ROC解析の結果、胃癌、膵臓癌でAUCがそれぞれ0.61、0.84であった。 CA19-9とC1SLAの値を比較検討した結果、両者の相関は疾患によって大きく異なることが判明した。膵臓癌患者では、比較的よく相関していた(R=0.44)。一方、胃癌患者では、両者の相関が低かった(R=0.11)。すなわち、膵臓癌ではCA19-9上昇にC1SLAの上昇が伴うことがほとんどであった。しかし、胃癌では、CA19-9高値でありながらC1SLA低値、またその逆、CA19-9低値でありながらC1SLA高値となる患者が少なからず存在した。これらのことから,C1SLAは癌患者、特に両者の相関が悪い、胃癌などに対して、CA19-9を補助する腫瘍マーカーなりうることが判明した
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