研究課題
担癌個体におけるIL-6および、可溶性IL-6受容体(soluble IL-6 receptor; sIL-6R)の増加は、がんの予後不良因子として報告されている。本研究は、担癌個体内におけるIL-6シグナルによる腫瘍特異的Th1細胞の分化抑制の機序について、sIL-6Rに着目して、腫瘍特異的CD4+T細胞に対する担癌個体の免疫抑制機序を解明することを目的とした。これまでの研究結果より我々は、担癌個体では、典型的なIL-6のシグナル伝達様式ではなく、可溶性IL-6受容体(sIL-6R)とIL-6の複合体がリガンドとなり、シグナル伝達を司るgp130と細胞表面で会合して、T細胞内へIL-6シグナルが伝えられる様式 (IL-6トランスシグナル)により、T細胞にIL-6シグナルが伝えられるという仮説を立てた。そしてIL-6Rを欠損する担癌マウスをレシピエントとして使用した場合、あるいはsIL-6Rに特異的に結合してgp130への結合を阻害する可溶性gp130(sgp130)を投与した場合、Th1細胞の分化抑制は解除されることを新たに見出した。さらに、担癌個体内の細胞を分画し、それぞれの細胞分画によるsIL-6R産生をELISAにより検討したところ、Gr-1+、またCD11b+の細胞群で、特に高いsIL-6Rの産生を認めた。これと符合して、ミエロイド系細胞特異的IL-6R欠損担癌個体では、血清中のsIL-6Rがコントロール群と比較して減少する一方、CD4+T細胞を介した抗腫瘍効果は、IL-6活性を抑制した場合と同様、コントロール群に比べて増強した。これらの結果より、担癌個体で増加するsIL-6Rは、、IL-6と協調してTh1細胞の分化を抑制することが示唆された。その結果、効果的な抗腫瘍免疫応答の誘導が妨げられると考えられる。このため、IL-6/sIL-6Rを介した免疫抑制を阻止して、Th1細胞の分化を促進するアプローチは、がんに対する免疫療法の効果を増強する方法の一つと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
研究計画において設定した仮説を、いくつかのマウス腫瘍モデルを用いた検討により一部証明することができた。さらに担癌個体において、抗腫瘍免疫応答を妨げるIL-6シグナルによるT細胞機能不全の分子メカニズムについて、標的となる候補分子を見出すことができた。これらの発見により、新たな研究の発展が期待できると考えられた。
担癌個体におけるIL-6シグナルによるT細胞機能不全を誘導する可能性が考えられる標的分子の欠損マウス、あるいは当該分子を強制的に高発現させたトランスジェニックマウスを、現在までに樹立したマウス腫瘍モデルに導入し、さらにin vivoにおける当該分子の機能を検討する。また、ヒトにおいても我々が設定した仮説が実証できる実験系の確立が必要とされ、この課題について今後、更なる検討が必要であると考えている。
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