研究課題
STX化合物は我々が見出した新規STAT3阻害剤である。STAT3のSH2ドメインに作用し二量化を阻害することによってその機能を抑制するユニークな薬剤であり、がん治療薬だけでなくリウマチなどの自己免疫疾患治療薬としても期待される。本物質は既に米国をはじめとした各国において特許登録されており、現在国内企業において抗がん剤候補物質としての非臨床試験が進められている。本研究では、STX化合物の将来的な臨床応用を見据えた作用機序解析、感受性予測因子の探索、他剤との併用効果の検討を研究課題としており、STAT3二量化阻害剤を医薬品として開発していくための分子基盤を確立し、さらには次世代STAT3シグナル制御薬探索のための新たなコンセプトを提案することを目的とする。STX-0119をリードとした多数の誘導体の中から抗がん物質として有望な2種類の化合物を選択し、リード化合物と比較して強力なSTAT3阻害活性を有することを明らかとした。またこれらSTX化合物は正常細胞に対しては細胞増殖阻害活性を示さなかった。さらに作用機序解析としてSTAT3のSH2ドメイン近辺のアミノ酸に点変異を導入した変異体を用い、リン酸化チロシン含有ペプチドとの結合試験を行った結果、STX化合物がSH2ドメインのC末側と相互作用していることが示唆された。これら誘導体の感受性予測因子を同定する目的で、キナーゼ阻害剤ライブラリー(270化合物)を用いた解析を行った。細胞系でのSTAT3阻害活性評価法としては、最も簡便にSTAT3による転写活性が評価可能なルシフェラーゼレポーターアッセイを用いた。本アッセイ法にて50%阻害濃度のSTX化合物によるSTAT3阻害作用に影響を与えるキナーゼ阻害剤のスクリーニングを実施し、STX化合物のSTAT3阻害作用を増強する複数のキナーゼ阻害剤を見出している。
2: おおむね順調に進展している
我々が見出してきたリード化合物STX-0119はSTAT3の二量化を選択的に阻害する化合物であり、これまでにヒト腫瘍移植マウスモデルにおいて経口投与で抗腫瘍活性を示すことを発表してきた。STX-0119をリードとした誘導体合成展開から創出してきた2種類の化合物を選択し、非細胞系および細胞系におけるSTAT3阻害活性を評価し、リード化合物と比較して強力な阻害活性を有することを明らかとした。これらSTX化合物は、STAT3が活性化したがん細胞に対して強い増殖阻害活性を示すが、正常組織由来の細胞株に対して阻害作用を示さなかった。さらにこれらの物質とSTAT3のSH2ドメインとの相互作用を解析する目的で、SH2ドメイン内およびその近傍のアミノ酸を置換した変異型STAT3を調製し、リン酸化チロシン含有ペプチドとの結合阻害に対する影響を検討した。その結果、STX化合物がSH2ドメインのC末側と相互作用することが示唆された。さらにSTX化合物の感受性予測因子を同定する目的で、キナーゼ阻害剤ライブラリー(270化合物)を用いた解析を行った。細胞系でのSTAT3阻害活性評価法としては、最も簡便にSTAT3による転写活性が評価可能なルシフェラーゼレポーターアッセイを用いた。具体的にはHeLa細胞由来のレポーター細胞株に対して、STAT3による転写活性を50%阻害する濃度のSTX化合物をキナーゼ阻害剤存在下または非存在下で添加し、インターフェロンα刺激後のルシフェラーゼ活性を測定した。このような方法によってSTX化合物によるSTAT3阻害活性に影響を与えるキナーゼ阻害剤をスクリーニングした結果、STX化合物のSTAT3阻害作用を増強する複数のキナーゼ阻害剤ヒットを見出しており、今後はキナーゼ阻害剤の分類と増強作用のメカニズム解析を進めることによって、感受性予測因子の同定へと繋げる予定である。
将来的にSTX化合物のような薬剤を臨床開発していくためには、感受性の高いがん種や遺伝子変異等を有する特定の集団を選定することが求められる。したがって、感受性を予測できる遺伝子変異等バイオマーカーが重要となる。本研究はSTX化合物の将来的な臨床応用を見据えた作用機序解析、感受性予測因子の探索、他剤との併用効果の検討、を研究課題としており、STAT3二量化阻害剤を医薬品として開発していくための分子基盤を確立し、さらには次世代STAT3シグナル制御薬探索のための新たなコンセプトを提案することを目的としている。本年度までに強力なSTAT3阻害作用を有する2種類の化合物の作用機序解析を行ってきた。また細胞内におけるSTX化合物のSTAT3阻害活性を増強するキナーゼ阻害剤ヒット化合物を見出している。これら一次スクリーニングで選択した候補因子については、JAK阻害剤、及び他のシグナルパスウェイ阻害剤を用いた実験によりパスウェイ選択性を評価し、STAT3阻害選択的に感受性を変化させる因子を絞り込む。選抜、同定される因子については、ノックダウンや小分子の阻害効果だけでなく、過剰発現による感受性変化を詳細に解析しながら、STAT3シグナルとの関わりについて考察する。一方、キナーゼ阻害剤ライブラリーの場合には複数のキナーゼに作用する化合物も多数存在する。従ってこれらマルチターゲット型のキナーゼ阻害剤がヒットした場合には、結果の解析、つまり特異的シグナルの同定が困難になることが懸念されることから、平行してsiRNAライブラリーを用いた解析を進める。siRNAの導入効率、ノックダウン効率、細胞増殖に及ぼす影響等を考慮して条件検討を行った後に、siRNAのスクリーニングを実施する予定である。
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