研究課題/領域番号 |
26430166
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
浅井 章良 静岡県立大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (60381737)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | STAT3 / SH2 / シグナル伝達 / 免疫チェックポイント / PD-L1 / IDO1 |
研究実績の概要 |
STX化合物は我々が見出した経口投与可能な新規STAT3阻害剤である。STAT3のSH2ドメインに作用し二量化を阻害することによってその機能を抑制するユニークな薬剤であり、がん治療薬だけでなくリウマチなどの自己免疫疾患治療薬としても期待される。本物質は既に米国をはじめとした各国において特許が成立しており、現在国内企業において抗がん剤候補物質としての非臨床試験が進められている。これまでにSTX-0119をリードとして合成したSTX化合物の中から最も強力な誘導体を選択し解析に用いている。当該年度は前年度に続き、STX化合物と各種シグナル伝達阻害剤との併用効果の検討を継続した。最も簡便にSTAT3による転写活性が評価可能なルシフェラーゼレポーターアッセイを用いた一次スクリーニングとその後の併用係数(combination index)の算出によって、特定のシグナル伝達をブロックするキナーゼ阻害剤が、相乗または相加的にSTAT3阻害活性を示すことを明らかとした。一方、STAT3阻害剤の分子機序の一部として免疫チェックポイント関連タンパク質に対する作用が期待されたことから、細胞レベルでのprogrammed death-ligand 1 (PD-L1)、およびindoleamine 2 3-dioxygenase 1 (IDO1) への作用を検討した。その結果、STX化合物は濃度依存的にヒトリンパ腫細胞株においてPD-L1の恒常的発現を抑制し、またヒト上皮様細胞癌株においてIFNγで惹起されるIDO1によるトリプトファン代謝を阻害することが判明した。これらの知見はSTX化合物の免疫チェックポイントに対する抑制作用を示唆しており、将来的にSTAT3阻害剤を臨床応用していくための分子基盤として重要な知見と考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、STX化合物の将来的な臨床応用を見据えた作用機序解析、感受性予測因子の探索、他剤との併用効果の検討を研究課題としており、STAT3二量化阻害剤を医薬品として開発していくための分子基盤を確立し、さらには次世代STAT3シグナル制御薬探索のための新たなコンセプトを提案することを目的とする。これまでの研究で以下の結果を得ている。1)STX化合物によるSH2ドメインを介したSTAT3二量化阻害剤としての作用を生化学的に検証し、STAT3が恒常的に活性化しているがん細胞株選択的に細胞増殖阻害作用を示すことを明らかとした。2)キナーゼ阻害剤ライブラリーを用いることによりSTX化合物によるSTAT3阻害作用の感受性に関わるシグナル伝達系を同定することができた。3)申請当初は想定していなかった実験結果として、STX化合物ががん細胞表面に恒常的に発現するPD-L1のレベルを低下させること、およびIDO1によるトリプトファン代謝を抑制することが明らかとなり、STX化合物の腫瘍微小環境における免疫逃避機構解除作用に繋がる知見を得た。これらの結果はいずれも、将来的にSTAT3阻害剤を臨床応用する際の適応がん種の合理的選択や効果的な併用薬との組み合わせを考えていくうえで重要な指針を与えるものである。
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今後の研究の推進方策 |
将来的にSTX化合物のような薬剤を臨床開発していくためには、感受性の高いがん種や遺伝子変異等を有する特定の集団を選定することが求められる。したがって、感受性を予測できる遺伝子変異等バイオマーカーが重要となる。本研究はSTX化合物の将来的な臨床応用を見据えた作用機序解析、感受性予測因子の探索、他剤との併用効果の検討を研究課題としており、STAT3二量化阻害剤を医薬品として開発していくための分子基盤を確立し、さらには次世代STAT3シグナル制御薬探索のための新たなコンセプトを提案することを目的としている。本年度までにSTX化合物によるSH2ドメインを介したSTAT3二量化阻害剤としての作用を生化学的に検証し、STAT3が恒常的に活性化しているがん細胞選択的な作用を示すことを明らかとした。またキナーゼ阻害剤ライブラリーを用いることによりSTX化合物によるSTAT3阻害作用の増強に関わるシグナル伝達系を同定したことから、今後は当該シグナルとSTX化合物に対する感受性の関連性について分子レベルで解析するとともに、新たに入手が可能となったキナーゼ阻害剤群を用いて当該シグナル以外のシグナルの重要性を探る。またsiRNAライブラリーについても導入条件の検討は終了しており、今後は主にキナーゼノックダウン効果によるSTX化合物の耐性株に対する感受性回復を指標に検討予定である。一方、STX化合物によるPD-L1の発現レベルの低下やIDO1によるトリプトファン代謝抑制作用についてもメカニズムの詳細を検討することにより、STAT3を中心としたシグナル伝達とがんの免疫抑制逃避機構との関わりの理解への一助としていく。
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