研究課題
個々の患者の免疫記憶に対応したペプチドを用いるテーラーメイドペプチドワクチン療法では、従来型のがんペプチドワクチンに比し、各段に高い臨床効果が得られるようになった。しかしながら、個々の患者の多様性に対応するためには多くの種類のワクチン候補ペプチドを事前に用意しなければならず、HLA検査や免疫検査などの特殊検査が必要であり、かつ投与部位への残留や炎症も長期投与患者では大きな負担となるなど、一般医療へ移行するには多くの問題がある。そこで、本研究ではテーラーメイドワクチンと同等以上の臨床効果を有し、事前の特殊検査を必要とせず、かつ投与局所刺激性の強いフロイント不完全アジュバントを用いない患者にやさしい次世代経皮カクテルワクチンの開発を行う。本年度は以下の研究を実施した。1.経皮アジュバントの開発および至適化・作用機序の解明:TLR非依存型プロトタイプアジュバントの免疫増強作用について、B6マウスを用いIFN-ガンマ産生細胞ELISPOT法で解析した結果、免疫増強作用が確認された。OVA由来クラスⅠペプチド(SIINFEKL)反応性TcRを有するOT-1マウス脾細胞移入B6マウスを用いて、CSFEアッセイで解析した結果、CD8細胞のクローン増殖が増強されていることが判明した。また、イミキモドの効果を増強する低分子化合物についても同様の方法によりスクリーニングを行った。その結果、アジュバント作用を増強する新規の薬物群を発見した。2.経皮免疫法の検討:OT-1細胞移入B6マウスモデルを用いて経皮免疫法の検討を行った。OVA由来クラスⅠペプチドを界面活性剤および角質浸透促進剤と混合し、イミキモドとともにB6マウスの皮膚に塗布し、CD8細胞の増殖をCSFEアッセイ解析した。その結果、塗布法でも特異免疫を誘導可能であることが示された。3.経皮ワクチンの抗腫瘍効果の検討:OVAを発現するEG-7-OVA細胞をB6マウス皮下に移植する実験系を確立した。
2: おおむね順調に進展している
26年度に計画された研究5項目のうち、4項目について実施することができた。(1)経皮アジュバントの開発および至適化、および(2)作用機序の解明については、TLR非依存型プロトタイプアジュバントのペプチドワクチン併用時のCTL誘導能について、その効果が確認され、さらにその作用機序が解明された。これらにより、27年度に予定されている臨床研究実施のための倫理審査申請を行うことができた。また、経皮アジュバントの作用を増強する新規薬物群が発見された。OT-1遺伝子組換えマウスは米国より輸入し、久留米大学において自家繁殖を行った。実際の実験に使用可能な数が生産できるまでに約半年有したが、現在安定供給が可能となった。(3)経皮免疫法の検討では、マイクロニードル等の特殊なデバイスの入手が困難であったが、デバイスを用いない塗布法の開発を行い、満足いく結果が得られた。(4)経皮ワクチンの抗腫瘍効果の検討については、EG-7-OVA細胞を細胞バンクより入手し、B6マウス皮下移植における至適条件の検討を行い、抗腫瘍効果検討のための実験開始に至った。(5)経皮ワクチン用カクテル製剤の検討については、経皮ワクチンに使用するアジュバントや投与法が確定していなかったために本年度は実施しなかった。以上のことより、当初の計画に沿って、概ね順調に進展していると判断した。
26年度に実施終了しなかった項目について研究を継続し、早期論文化を目指す。また、研究の進捗に伴い、以下の項目についても研究を開始する。1.臨床研究の実施(別資金で実施):TLR非依存型プロトタイプアジュバントの安全性について評価する目的で、健常人を対象とする臨床試験を実施する。さらに、当試験で安全性が確認された最大用量を用いて、がんペプチドワクチンとの併用試験を実施する。これにより、免疫増強効果を検討する。これらの研究を開始するに当たり、学内の倫理委員会の承認を得る。2.経皮カクテルワクチンのキメラマウスによる免疫誘導解析:ヒトのHLA-A0201もしくはHLA-A2402とマウスH-2KbのキメラMHCを発現するHLA-A0201/H-2KbもしくはHLA-A2402/H-2Kbキメラマウスを用いてカクテルワクチンの免疫誘導能について検討する。キメラマウスは米国より輸入し、久留米大学で自家繁殖を行う。3.経皮カクテルワクチンに適した免疫評価法の確立:最大20種の抗原ペプチドに対応する特異免疫を評価するためには従来法では大量の末梢血PBMCを要する。そこで、少量の血液検体からでも高感度に検出できる方法を新たに開発する。4.腫瘍周辺微小環境への影響の検討:PD-1/PDL-1やCTLA-4などの免疫チェックポイント関連分子の腫瘍局所ならびに末梢での変動、及びCTLの腫瘍局所への集積・活性化について、動物モデルおよび臨床試験検体を用いて解析を行う。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (13件) 備考 (1件)
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