研究課題/領域番号 |
26430177
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
馬島 哲夫 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター 分子生物治療研究部, 主任研究員 (30311228)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / 前立腺がん / 小胞体ストレス |
研究実績の概要 |
前立腺がんではその細胞集団中に、高い腫瘍形成能を有する「腫瘍源細胞(癌幹細胞)」が存在し、治療抵抗性や再発に関わることが明らかにされてきた。しかし腫瘍源細胞の生存因子に関する研究や知見は乏しい。我々は、包括的RNAiスクリーニングにより、前立腺がん腫瘍源細胞の生存維持因子を探索し、TRIB1(PCSC1)を同定した。TRIB1のノックダウンは、癌幹細胞の増殖の指標となるスフェア増殖を選択的に抑制し、またin vivoにおける腫瘍形成を強く阻害した。TRIB1の発現は、前立腺がん細胞の腫瘍源細胞(CD151/CD166/TRA1-60陽性細胞)において選択的に認められた。また、TRIB1ノックダウンは、マーカー陽性細胞に選択的な増殖抑制効果を示した。我々はさらにTRIB1ノックダウン細胞を用いた遺伝子シグニチャー解析を行い、下流のシグナル経路を調べた。その結果、TRIB1はその下流において小胞体ストレス応答に関わる遺伝子群、とくに前立腺がんのがん化の要因となる小胞体ストレスシャペロンGRP78の発現を正に制御していることを見出した。GRP78は、マーカー陽性細胞において選択的な発現が認められた。免疫蛍光抗体法による細胞内局在の検討の結果、TRIB1は前立腺がん細胞において小胞体に局在することがわかった。さらに、前立腺がんの組織アレイや組織由来RNAを用いた解析から、前立腺がんではTRIB1が過剰発現していることや、その発現がGRP78の発現に相関することも見出した。以上から、TRIB1は前立腺がん腫瘍源細胞の生存維持に重要な役割をもつことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がん幹細胞の新しい生存維持因子として、TRIB1を同定することができ、またその下流のシグナル分子としてGRP78を明らかにできた。計画していた研究内容としては、腫瘍源細胞におけるTRIB1の発現やノックダウンの効果を調べ、また遺伝子シグニチャー解析から示唆されたTRIB1と小胞体ストレス応答因子(GRP78)との関連性を明らかにすることであった。これらの点は概ね解析できたと思われる。とくにこれらの成果については論文化も完了した。ただし、TRIB1の前立腺がん細胞分化との関連については今年度は十分に解析できなかったので、この点は次年度にさらに解析を進めて行く予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの解析で明らかにできたTRIB1の前立腺がんの腫瘍源細胞の生存維持への関与の知見をベースとして、その分子機構の解析をさらに進める。具体的にはTRIB1による小胞体ストレスシャペロンGRP78の発現制御機構について、GRP78プロモーターを介した転写制御や、小胞体ストレスシグナル関連因子の発現への作用について、TRIB1の各種欠損変異体も作成することにより詳細に検討する。他方、TRIB1のノックダウンにより細胞分化様の形態変化が起きることがわかっている。そこで、遺伝子発現解析によりどのような遺伝子群が変動しているかを調べる。さらに、TRIB1による生存シグナルを抑制する化合物の探索を進める。具体的には、化合物発現シグニチャーデータベースを用いたin silico解析やwetな実験により、TRIB1依存的な遺伝子群の発現を抑制する化合物を探索する。これによりTRIB1を標的とした腫瘍源細胞の抑制薬剤の同定を目指す。
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