研究課題
前立腺がんではその細胞集団中に、高い腫瘍形成能を有する腫瘍源細胞(癌幹細胞)が存在し、治療抵抗性に関わることが明らかにされてきた。しかし腫瘍源細胞の治療ターゲットとなりうる生存因子に関する知見は乏しい。我々は、機能遺伝学的手法により、前立腺がん腫瘍源細胞の新たな生存維持因子としてTRIB1を同定した。前年度までの解析で、TRIB1が、腫瘍源細胞選択的に増殖に関わり、腫瘍形成に寄与することが示された。さらにTRIB1が小胞体シャペロンGRP78の発現に関わる事もわかった。TRIB1のノックダウンで3次元増殖の抑制が見られたが、これはshRNA抵抗性TRIB1の過剰発現によりレスキューされた。またTRIB1によるGRP78の発現制御がそのプロモーター活性制御によることもわかった。他方、TRIB1のノックダウンにより明確な細胞の形態変化が見られ分化様の変化が考えられた。その際、Dicer遺伝子の発現が顕著に変動することを見出した。そこでTRIB1発現抑制時の形質変化へのマイクロRNAの関与を見るため、Affymetrix miRNAアレイによりTRIB1ノックダウン時に変動するマイクロRNAに関するデータを取得した。またTRIB1自体は酵素でなく、薬剤探索の標的として適さない。そこで、TRIB1依存的な生存経路を抑制し、前立腺がん幹細胞を選択的に抑制できる薬剤シーズを探索する目的で、TRIB1の発現抑制時と類似した遺伝子群を変動させる薬剤のスクリーニングをin silico探索にて行い、候補化合物を抽出した。
2: おおむね順調に進展している
前年度までに同定したTRIB1の前立腺がん腫瘍源細胞における役割について、当初予定したGRP78の発現制御機構の解析やDicerの関与、マイクロRNAの解析に関して予定通りに進める事ができた。またTRIB1関連の生存経路やここに作用する薬剤を探索するため、遺伝子発現データに基づいたin silico探索も進める事ができた。
次年度は、TRIB1依存的な生存経路の解析という基礎研究の側面、および、TRIB1依存的生存経路に作用する薬剤の探索という応用研究の側面、両面において、さらなる検討を進めていきたい。本年度までに得られた結果は、こうした解析の良い基盤になる。TRIB1による小胞体シャペロンの転写発現制御の機序をさらに解析するとともに、TRIB1発現抑制時に発現変動のみられるマイクロRNAについても、得られたデータを体系的に整理し、機能的に関わる因子の探索へとつなげる。また本年度の解析で、TRIB1関連経路に作用する可能性のある薬剤については、腫瘍源細胞への選択的な増殖抑制作用を見るとともに、TRIB1経路をどのように抑制するのかの機序を明らかにしていく。
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Cancer Science
巻: 106 ページ: 909-920
10.1111/cas.12682