研究課題/領域番号 |
26430185
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
菊池 裕 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20286438)
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研究分担者 |
穂積 俊矢 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10597222)
武藤 彰彦 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任助教 (70589366)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ゼブラフィッシュ / 再生 / トランスクリプトーム解析 |
研究実績の概要 |
<尾ビレ再生時の脱分化細胞で特異的に発現する遺伝子のスクリーニング> 本研究課題では、ゼブラフィッシュ尾ビレ再生時に観察される脱分化機構の解明を研究目的としている。翻訳リボソーム親和性精製法 (Translating Ribosome Affinity Purification; TRAP)を用いることにより、脱分化細胞で特異的に発現する遺伝子を次世代シークエンサーにより単離し、脱分化に機能する遺伝子を明らかにする。本年度は、脱分化細胞をGFP蛍光でラベルするため、elongation factor 1α (ef1α)遺伝子のプロモーターで、EGFP-ribosomal protein L10a(EGFP-rpl10a)遺伝子をコントロールさせたトランスジェニックフィッシュ(Tg[ef1α:EGFP-rpl10a])の作製を行った。更にこのトランスジェニックフィッシュの再生芽から、GFP蛍光を指標にして脱分化細胞を集め、次世代シークエンサーにより脱分化細胞特異的遺伝子を単離する予定である。
<尾ビレ再生におけるmTORC1の機能解析> 私達の研究室では、ゼブラフィッシュ尾ビレ再生過程において、Mechanistic target of rapamycin complex 1 (mTORC1)活性化の指標であるS6キナーゼのリン酸化(Phosphorylated S6 kinase:p-S6K)が、切断後6時間目という非常に早い時間から起こる事を見出した。この発見をきっかけに、本研究申請では切断後早い時間に起こる脱分化機構に着目し、脱分化細胞で特異的に発現する遺伝子のスクリーニングを計画している。私達は、mTORC1特異的阻害剤であるラパマイシンを用いてmTORC1の機能解析を行った結果、尾ビレ再生が劇的に抑制される事を見出した。更にmTORC1を活性化する上流経路の探索を行った結果、インスリン様成長因子1受容体(Insulin- like growth factor-1 receptor: IGFR)・ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(Phosphatidylinositol-3 kinase: PI3K)経路及びcanonical Wnt経路によって活性化されることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゼブラフィッシュの尾ビレ再生を実験系として、脱分化細胞で特異的に発現する遺伝子のスクリーニング及び、その遺伝子機能を解明することが、本研究の目的である。本年度は、脱分化細胞で特異的に発現する遺伝子をスクリーニングするために用いるトランスジェニックフィッシュ(Tg[ef1α:EGFP-rpl10a])の作製に成功した。更に現在、このトランスジェニックフィッシュの再生芽から、脱分化細胞をソーティングするための実験条件の検討を行っている段階であることから、おおむね順調に進展していると考えている。 また、本研究申請のきっかけとなった、尾ビレ再生におけるmTORC1の機能解析に関しては、本研究費とは異なる研究費により更に詳細な実験を行った。mTORC1特異的阻害剤であるラパマイシンを用いた阻害実験を行った結果、劇的に尾びれ再生が抑制された。ラパマイシンの処理により、再生芽形成過程において細胞増殖の抑制が生じること、再生芽伸長過程においては細胞増殖の抑制・細胞死の誘発・骨芽細胞の分化抑制が起きていることが観察された。ラパマイシン以外の2種類の異なる阻害剤を用いた処理や、mTORC1の構成因子の一つであるRaptorのノックダウン実験も行い、ラパマイシンと同様の再生阻害が起こる事を確認した。また、様々なシグナル伝達経路阻害剤を用いることにより、mTORC1を活性化する上流の因子の探索を行った結果、IGFR-PI3K経路・canonical Wnt経路により制御されていることを見出し、専門誌に論文発表(BMC Developmental Biology 2014;14(1):42.)を行った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究申請の実験計画通りに、トランスジェニックフィッシュ(Tg[ef1α:EGFP-rpl10a])の再生芽から、脱分化細胞をセルソーティングにより単離する。次世代シークエンサーによる網羅的な遺伝子発現解析のためには、生きたゼブラフィッシュの再生芽から、セルソーティングにより脱分化細胞を多量に分離しなければならない。私達の研究室では、この様な実験操作の経験が少ないことから、この実験段階が技術的に非常に困難であると予想している。そのため、現在各実験ステップ毎に慎重に実験条件の検討を行っている段階である。脱分化細胞の単離が出来れば、それ以降の次世代シークエンサーによるスクリーニング及び遺伝子機能解析は、多くの研究実績があるため、順調に進めることが出来ると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究申請書に記載の通り、初年度では、翻訳リボソーム親和性精製法 (Translating Ribosome Affinity Purification; TRAP)を用いた遺伝子のスクリーニングを行うため、トランスジェニックフィッシュ(Tg[ef1α:EGFP-rpl10a])の作製を中心に実験を行った。トランスジェニックフィッシュの作製には多くの時間が必要であるが、使う研究費は少なくて済むため、次年度の使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
“今後の推進方策”にも記載の通り、次年度ではトランスジェニックフィッシュ(Tg[ef1α:EGFP-rpl10a])の再生芽から、脱分化細胞をセルソーティングにより単離し、次世代シークエンサーによる網羅的な遺伝子発現解析を行う。このトランスクリプトーム解析には、多額の費用が必要となるため、次年度の研究費は、セルソーティング・次世代シークエンサー・データーの解析等に使用する予定である。
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