研究実績の概要 |
前年度までに、複数のプロモーターから転写されるCYP19遺伝子をSEVENS法で解析し、ヌクレオソームの凝集度が転写量と逆相関することを明らかにした。そこで、今年度は、CYP19遺伝子にみられたクロマチン構造と転写量の関係が全遺伝子に普遍的にみられることを検証するため、ゲノムワイドな解析を行った。SEVENS法の定法に従い、HepG2細胞をホルムアルデヒドで架橋して超音波処理により断片化後、ショ糖密度勾配遠心法により6つのフラクションに分画した。各フラクションから精製したDNAを次世代シーケンサーで解析後、全ゲノム領域におけるSEVENSフラクションの分布を明らかにした。その結果、いずれの領域においても、特定のフラクション一点に局在することはなく、上部から下部フラクションにかけて勾配をもって分布することが観察された。ただし、その勾配には「上部>下部」と「上部<下部」の2パターンが観察され、転写活性の大きい遺伝子のプロモーター領域には前者のクロマチン構造が必ずみられた。この観察は、CYP19遺伝子プロモーターのクロマチン構造の平衡状態を報告した2015年の論文(Kotomura et al., PLoS One, 10, e0128282)をサポートするものと考えられる。一方、「上部<下部」のクロマチン構造がみられる領域を探索したところ、ペリセントロメア領域において優位にみられることが分かった。この領域のヘテロクロマチン構造はよく知られているが、下部フラクションのみに局在するのではなく、上部<下部という勾配を持つ分布で観察されたことは興味深い。つまり、ヘテロクロマチン構造とは、従来からイメージされているヌクレオソームの恒性的な凝集状態ではなく、ダイナミックな凝集・解離の繰り返しの中で「凝集」側に傾いたヌクレオソームの平衡状態がその本質であること示唆された。
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