研究課題/領域番号 |
26430189
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
布施 直之 独立行政法人理化学研究所, 多細胞システム形成研究センター, 研究員 (80321983)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ゲノム編集 / ゲノム / ショウジョウバエ / 環境適応 / ロドプシン / 光 |
研究実績の概要 |
私達は、60年間暗闇で継代されたショウジョウバエ系統(暗黒バエ)を用いて、環境適応の分子メカニズムを調べている。過去に、暗黒バエのゲノム解析から、機能未知のロドプシン遺伝子(Rh7)にナンセンス変異が見つかった。本研究は、ゲノム編集法を用いてRh7のノックアウト(KO)系統やノックイン(KI)系統を作製し、暗闇適応におけるRh7の役割を明らかにすることを目的としている。 平成26年度は、Rh7のKO系統とKI系統の作製を試みた。Rh7遺伝子をターゲットとするTALENのmRNAをショウジョウバエ卵にインジェクションし、次世代の成虫をスクリーニングしたところ、8bpの欠失を持つ系統など、数種のKO系統が同定された。しかし、KOの効率は約1%と低く、効率がより低いと予想されるKI系統の作製には至らなかった。効率の良いゲノム編集法を確立するために、CRISPR/Cas9システムを用いて、KO系統の作製を試みたところ、約10%の効率でKO系統が同定された。今後、このシステムを用いて、KI系統の作製を行う。 また、Rh7蛋白質の機能を調べるツールとして、N末端部分に対する抗体を作製した。作製した抗体は、培養細胞で発現したRh7遺伝子産物を特異的に認識し、western blotting法や組織染色法の両方で利用可能であることがわかった。さらに、暗黒バエと同様に、C末端が21アミノ酸短いRh7蛋白質を培養細胞で発現させ、抗体を用いて細胞内局在を調べた。興味深いことに、野生型のRh7蛋白質は主に細胞膜に局在したが、暗黒バエ型のRh7蛋白質は細胞質全体に分布していた。この結果は、暗黒バエのRh7変異が、Rh7蛋白質の細胞内輸送を変化させ、その機能に影響を与えうることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Rh7遺伝子のKO系統は今まで報告が無いので、その意義は大きい。残念ながら、平成26年度に計画したKI系統の作製には至らなかったが、CRISPR/Cas9システムを用いた効率の良いゲノム編集法が確立できたので、今後、KI系統の作製を行うことができる。さらに、蛋白質の機能を調べるツールとして抗体が作製できたことも意義が大きい。Rh7の抗体に関しても、今まで報告が無いので、今後、抗体を用いて発現組織を詳細に調べることが可能となった。また、暗黒バエ型のRh7蛋白質が培養細胞で細胞内局在を変化させることがわかった。7回膜貫通型のG蛋白質共役型レセプターであるロドプシンは、主に細胞膜に局在するとともに、複雑なシグナル伝達系によって、細胞内輸送が巧妙に制御されていることが知られている。暗黒バエのRh7変異は、この制御機構に重大な影響を与え、異常な細胞内輸送が起こっていることが予想される。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、CRISPR/Cas9システムを用いて、Rh7遺伝子のKI系統の作製を試みる。KI系統の作製は、KO系統の作製よりも効率が悪いことが知られている。KI系統の簡便で確実な作製法は、多くの研究者が待ち望んでいる技術であり、農学や医学にも応用可能な重要な技術となる。その作製法は年々更新されているので、最新の技術を用いるとともに、申請者自身がもつアイデアも試し、効率の良い作製法を確立する。 本年度は、KI系統の作製と並行して、KO系統の表現型の解析を行う。現在、聴覚や視覚を解析する電気生理実験を始めており、Rプログラムを用いて活動電位のデータ解析も始めている。今後、このプログラムを用いて、活動電位の特性(振幅、減衰、持続時間など)を解析し、Rh7変異による聴覚や視覚への影響を明確にする。 Rh7蛋白質を特異的に認識する抗体が得られたので、この抗体を用いて、発現組織を詳細に解析する。さらに、暗黒バエの抗体染色も行い、暗黒バエ型のRh7蛋白質の発現組織と細胞内局在を調べ、野生型ハエと比較する。また、暗闇で飼育した野生型ハエでも抗体染色を行い、光によるRh7蛋白質の局在への影響を調べる。これらの実験を通して、蛋白質レベルで暗黒バエのRh7変異の影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に使用した分子生物学試薬や組織染色試薬など消耗品の大部分は、研究室の既存のものを使用することができたので、物品費を節約することができた。さらに、KI系統の作製に至らなかったので、使用する試薬の使用量が予想より少なかった。また、平成26年度は、実験計画の調整ができず、学会に参加できなかったので、旅費の支出がなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度、KI系統の作製を行うために種々の条件検討が必要となるので、分子生物学試薬や組織染色試薬など、多数の消耗品を新たに購入する必要がある。さらに、今年度は、積極的に学会に参加し、研究成果のアピールや情報収集を行う予定である。したがって、物品費、旅費ともに、平成26年度繰越分と27年度請求分を合わせた合計額を使用する予定である。
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