研究実績の概要 |
生物は様々な環境に適応し進化してきた。しかし、環境適応のメカニズムは不明な点も多い。62年間1500世代に渡って暗闇で継代された「暗黒バエ」を用いて、環境適応を分子レベルで理解することを目指している(Fuse, 2017)。本研究は、暗黒バエの暗闇適応に関わる遺伝子を同定すること、明暗環境における遺伝子発現の変化を明らかにすることを目的とした。 暗黒バエのゲノム変異を同定するために、次世代シーケンサーを用いて全ゲノム配列を決定し、約22万の1塩基多型(SNP)を同定した(Izutsu, 2012)。この中から適応に関与するSNPを同定するために、暗黒バエと野生型ハエを混合した集団を明所と暗所で継代した。集団ゲノムの解析から、暗所で選択されるゲノム領域を絞り込み、暗闇適応に関与する候補として84遺伝子を同定した(Izutsu, 2016)。 暗黒バエのゲノム変異を野生型ハエに導入するために、ゲノム編集技術を用いた遺伝子ノックアウト法とノックイン法の確立を目指した。Cas9/CRISPRシステムを用いて、目的の遺伝子を効率良くノックアウトできる方法を確立した。今後、この方法を応用し、効率の良いノックイン法の確立を目指す。 さらに、トランスクリプトーム解析を行った。明所と暗所を比較すると、約100遺伝子の発現が野生型ハエで変動したが、暗黒バエでは変動しなかった。これらの遺伝子は概日リズムで制御され、様々な生理機能に関わる遺伝子であった。一方、時計遺伝子は、暗黒バエで正常に発現していた。このことから、暗黒バエでは、概日リズムそのものではなく、明暗環境における生理機能のバランスが変化していることが示唆された(論文準備中)。今後、ゲノムと遺伝子発現の関連を調べることで、環境適応における遺伝子ネットワークを包括的に理解したい。
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