研究課題
本研究は、気孔閉鎖やストレス時に働く細胞膜局在性イオン輸送体など、環境応答調節に重要な因子のゲノム編集による機能改変を目的としている。平成26年度は、まず、高効率ゲノム編集ツールの評価系を確立した。35SCaMVプロモーターの制御下での植物細胞中での発現にコドンを最適化したCas9、およびシロイヌナズナU6プロモーターの制御下でgRNAを発現するCRISPR/Cas9発現ベクターを用いて、乾燥などのストレス応答やストレスに重要な植物ホルモンアブシジン酸応答に重要な機能を持つ因子について、シロイヌナズナゲノム情報をもとに複数の標的配列をgRNAとして選抜し、CRISPR/Cas9発現ベクターに導入した。gRNAの選抜については、シロイヌナズナの気孔開口に機能するプロトンポンプは、調節領域として機能すると考えられる細胞質ドメインを標的部位として、ドミナントに作用する変異導入を試みた。最終的に、gRNA標的配列は、off-target 変異を避けるために、in silico 解析によるターゲット配列の探索を行って決定した。次に、構築したCRISPR/Cas9発現カセットをシロイヌナズナに形質転換した。T1形質転換植物におけるCas9タンパク質の発現レベルはウェスタンブロットにより、またgRNAの発現レベルはqRTPCRにより解析した。選抜したT1世代における変異をCel-1アッセイおよび塩基配列解析により詳細を解析した。その結果、それぞれのgRNAに対する変異効率が12.5 - 60%で生じていることが明らかになった。また、Cas9に付加した核移行シグナルを2個から1個に変換した場合では変異効率が減少した。T2世代における変異解析の結果、変異が検出されたことから、本システムを用いて安定的なゲノム編集系が構築されたことが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
シロイヌナズナを用いたゲノム編集研究について、環境応答調節に重要な因子群について、それぞれ複数のgRNA配列をターゲットとするCRISPR/Cas9形質転換植物を得ることができた。これらについて、変異導入の解析を進めており、次世代の伝播性の評価とともに、変異効率の評価の解析が予定通り進んでいる。また、変異箇所の詳細解析の結果、目的とした標的箇所には終始コドンが導入されており、目的の変異が得られていた。これらの状況より、当初の研究計画がおおむね順調に進展していると判断した。
1)CRISPR/Cas9による変異導入植物体について、形質転換を行った世代より後代の植物体において変異伝播性の解析を行い、最終的にCRISPR/CAS9による変異系統を確立する。これらの変異系統におけるoff-target変異について次世代シーケンサーなどで評価を進める。2) CRISPR/Cas9によって得られた新規変異植物体について、乾燥や高塩ストレス耐性能などの生理応答を解析し、変異によるストレス応答性への影響を解明する。3) CAS9 発現システムの改良などを種々試みることで、次世代により伝播性の高い新規高効率CRISPR/Cas9発現系を確立する。4) これまで標的遺伝子の変異体がないシロイヌナズナ近縁種や自然変異系統、イネやトマトなどの環境応答因子オルソログについて、ゲノム編集により新規変異導入を行う。
年度途中より変異検出に使用する手法を変更したため、購入予定であった酵素類などに使用する経費を来年度に持ち越した。
研究費の大部分は変異検出などの分子生物学的実験に用いる試薬類や植物育成に必要な消耗品費として使用する。また、学会発表および共同研究者との情報交換などの出張旅費としても使用する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 3件) 図書 (1件)
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