本研究は植物の高温ストレスに対する適応機構の解明と高温下での光合成機能維持の付与を目的とした。二次元クロロフィル測定装置を用いてクロロフィル蛍光を指標としたハイスループットなケミカルスクリーニングを行い、高温ストレスが及ぼす光合成電子伝達への負の影響を抑制する天然化合物の同定を目指した。前年度に約400種類のパイロットライブラリーを用いた第二段目のスクリーニングを行った結果、高温ストレス下で光合成機能の低下を大幅に抑制する化合物は見つからなかった。一方、ストレスがない条件下で光合成電子伝達を強力に阻害する2つの化合物を得た。本年度はこれらの2つの化合物がどのように光合成電子伝達を阻害するのかを明らかにするために研究を進めた。これらの阻害活性は化合物濃度依存であることを確認した。次にこれらの化合物が所属するグループの中の構造的に類縁な化合物(アナログ)または部分構造を持つ化合物を用いて光合成阻害活性の有無を調べた。その結果、初めにスクリーニングで得られた化合物以上に阻害活性を持つアナログは存在せず、スクリーニングで得られた化合物と同様な光合成阻害活性を示した。また化合物同士を混合した時の阻害活性の変化を調べる競合実験を行い、化合物構造上で活性に必要な部位を明らかにした。さらにクロロフィル蛍光を用いた化合物を処理した時の光合成パラメーターを調べることにより、光合成電子伝達上の標的の箇所を考察した。これにより1つの化合物は光化学系IIそれ自身を阻害しており、もう一つの化合物の標的は光化学系IIの下流(系Ⅰなど)に何らかが阻害されていることが示唆された。
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