これまでの研究で「水平伝播を利用した細胞間ダイレクトクローニング技術」について、ほぼ当初の計画通り研究が進行し、モデル実験系による条件検討および実践的で応用的なクローニング技術を開発することができた。最終年度である平成28年度では、これらの成果を踏まえて、受容菌として枯草菌以外の宿主へのダイレクトクローニングを試みた。対象としてシアノバクテリア7942株へのダイレクトクローニングを実施した。シアノバクテリア7942株も自然形質転換能を有する微生物として知られている。導入するDNAとして大腸菌とシアノバクテリア双方で複製可能なシャトルプラスミドp38ANLを使用し、供与菌(ドナー)として大腸菌DH5α株を用いた。大腸菌DH5α株の溶菌はこれまでと同じビルレントファージλgt10を感染させて行い、溶菌液を直接用いてシアノバクテリア7942株の形質転換を行った。抗生物質及びシアノバクテリア用の培地にプレーティングして光照射下で培養したところ、100個前後の形質転換体コロニーを得ることができた。この結果から「水平伝播を利用した細胞間ダイレクトクローニング技術」が「大腸菌→枯草菌」以外にも適用できることが確認された。別の実験系で「大腸菌→出芽酵母」や「枯草菌→出芽酵母」、「枯草菌→大腸菌」のダイレクトクローニングにも成功しており、当該技術が汎用性広く利用できることが確認されている。今回「大腸菌→大腸菌」及び「出芽酵母→培養細胞(Hela)」も試みたが、セレクション法(抗生物質または栄養要求性)がうまく機能せず確認できなかった。しかしながら当該技術は汎用性が広いだけではなく、プラスミドDNAの抽出・精製操作を含まないことから簡便・迅速で精製過程でダメージを受けやすい長鎖DNAに有効であり、将来的にますます活用され得ることが期待される。
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