本研究の最終目標は,野生化アライグマとマングースに対する経口避妊ワクチン開発である。実用ワクチンの開発は本申請研究期間の3年で完了できるものではないが,本申請研究により得られた成果の概要を以下に示す。 1)アライグマ 本種の卵透明帯蛋白(ZP3)の塩基配列を参考に合成した5種類のペプチド(①~⑤)のワクチン抗原としての有用性を評価した。各ペプチドをそれぞれ1羽のウサギに免疫して得た血清中の抗体価を測定したところ,抗体価は有意に上昇した。次に,各抗血清とアライグマおよびその他のネコ目6科9種の卵巣を用いて免疫組織化学を行い,血清中抗体の各動物種の卵透明帯への結合性を評価した。その結果,合成ペプチド①および②投与後血清は全動物種の卵透明帯との反応が見られず,合成ペプチド③,④および⑤投与後血清はアライグマ卵透明帯とのみ反応が見られた。合成ペプチド③,④および⑤はワクチンの抗原候補として有力であることが示された。 2)マングース 本種の卵透明帯蛋白(ZPC)の精子卵結合部位の塩基配列を参考に合成した2種類のペプチド(A,B)の抗原性と免疫記憶について評価した。各ペプチドを各3頭(A群,B群)の雌マングースに4回投与して経時的に抗体価を測定したところ,両群とも有意な抗体価の上昇が認められた。各群1頭は継続飼育をして初回投与から約18月間抗体価の推移を評価した結果,A投与個体で約12ヶ月以上,B投与個体で約5ヶ月に満たない抗体価の持続性を示した。さらに,初回投与から19ヶ月後に追加接種したが,いずれのペプチド投与個体でも高度な免疫記憶は認められなかった。合成ペプチドAはBより免疫効率が高く有用性は高いものと推察されたが,免疫された雌マングース血清中抗体とマングース卵巣との免疫染色では特異的な反応は認められず,両ペプチドとも避妊ワクチンの有効性を担保するための高い抗原性と免疫記憶を持たせる改良が必要だと考えられた。
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