研究課題/領域番号 |
26430207
|
研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
多田 昇弘 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (50338315)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | マウス / 初期胚 / ES細胞 / iPS細胞 / 真空乾燥 / 室温保存 / トレハロース / CRISPR/Cas9 |
研究実績の概要 |
生殖機能細胞(精子、卵子、受精卵、ES細胞、iPS細胞)をエネルギーフリーで保存できる新規な真空乾燥・室温保存法を開発することを目的として、本研究を行った。0.1M, 0.5M, 1.0Mおよび1.5Mトレハロースを含むPB1, M2, TEおよびmCZB-hepesを用いてマウス桑実期胚およびES細胞(E14TG2a)を常圧下にて室温液状保存を行ったところ、桑実期胚においては48時間の保存では、いずれの保存方法でもトレハロースの濃度に影響せず、胚盤胞への発生を認めた。また、ES細胞においても同様に生存が確認され、コロニー形成能が確認された。しかし、トレハロースを含む保存液を用いて桑実期胚及びES細胞を真空乾燥後、室温保存したところ、保存24時間後でも生存している細胞は得られなかった。このことから、従来、乾燥時に細胞保護効果のあるトレハロースのマウス初期胚及びES細胞の真空乾燥・室温保存に対する有効性が確認できなかった。その理由として、ネムリユスリカの幼虫の乾燥耐性の獲得には細胞内でのトレハロースの蓄積が必要であり、この蓄積により細胞の保護効果が生じることが示唆された。そこで、マウス桑実期胚へのトレハロースの取り込み方法を検討することを試みた。まず、ネムリユスリカの幼虫より単離したトレハローストランスポーター遺伝子を細胞膜上で発現するノックインマウスの作製を試みた。トレハローストランスポーターは、ネムリユスリカの細胞膜で発現しており、トレハロースのみを特異的に細胞内に取り込み、そして細胞外へ流出させることがわかっている。導入する遺伝子構築体は、CAGプロモーターの制御下でトレハローストランスポーターとGFPを同時に発現するもので、この構築体をドナーベクターとしてCRISPR/Cas9によりRosa26のセーフ―ハーバー領域にノックインしたマウスを作製しているところである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今までの研究により、マウス初期胚およびES細胞の真空乾燥・室温保存は、精子に比べて予想以上に難しいことがわかった。その理由として、精子は、頭部と尾部に分かれており、頭部は、核だけで細胞質はほとんどないことが知られている。精子の真空乾燥・室温保存は、可能であり、2年間、室温保存した精子から正常な産仔が得られることがわかっている。このことは、精子頭部にある核が正常であれば、受精能を有し、正常な個体へと発生できることを示している。受精卵やES細胞は、精子とは異なり、細胞内に核と細胞質があるため、乾燥・室温保存時に細胞質障害や浸透圧障害が生じて核へ悪影響を与えて、その後の生存を阻害することが考えられる。トレハロースの乾燥時における有効性が認められない原因として、受精卵やES細胞では、細胞質へのトレハロースの取り込みが困難であることが推測される。そこで、トレハロースの細胞内取り込みに関与しているトレハローストランスポーターを細胞膜上で発現するノックインマウスを作製し、このマウス由来の受精卵、ES細胞及びiPS細胞を用いてトレハロースによる乾燥耐性の獲得の可能性を追求する。また、進捗がやや遅れたもう一つの理由として、動物実験施設の改修工事があり、その準備及び打ち合わせ等で多くの時間を費やしてしまったこと、及び動物実験施設が閉鎖され、実験遂行に支障を来してしまったことが挙げられる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の重要な課題は、受精卵やES細胞等の生殖機能細胞の細胞質にどのようにしてトレハロースを取り込ませるかである。そこで、トレハローストランスポーターを細胞膜上で発現するノックインマウスを作製し、このマウス由来の受精卵、ES細胞等を用いて真空乾燥・室温保存を試みる。このノックインマウスの作製には、ゲノム編集(CRISPR/Cas9)を用いる。即ち、Rosa26遺伝子座のセーフハーバー領域に対するgRNAを合成し、ドナーベクターとしてCAGプロモーターの制御下でトレハローストランスポーターとGFPが同時に発現する遺伝子構築体(CAG-PvTret1-IRES2-AcGFP1)を構築する。この構築体の3'及び5'側に各々gRNA/Cas9により変異が挿入された部位に相同な領域(ホモロジーアーム)を結合させる。その後、gRNA, Cas9及びドナーベクターをマウス受精卵に注入し、移植によりノックインマウスを得る。なお、Rosa26遺伝子座のセーフハーバー領域は、導入された遺伝子の発現が非常に安定していることが知られている。得られたノックインマウス由来の受精卵及びES細胞等を用いて真空乾燥・室温保存を行うことにより、復水後の生存性を確認する。一方、ノックインマウスの作製以外にエレクトロポレーション(電気穿孔法)によりマウス受精卵やES細胞の細胞膜に小孔を開け、トレハロースの取り込みを確認した後、真空乾燥・室温保存を行い、復水後の生存性及び発生能を確認する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究期間中に、動物実験施設の改修工事があり、その準備及び打ち合わせ等で多くの時間を費やしてしまったこと、及び動物実験施設の閉鎖に伴い、実験の遂行に支障を来してしまった。物品費として、動物代、マイクロチューブ、チップ、カルチャーディッシュ、試薬(トレハロース、カテキン、抗酸化剤、流動パラフィン)、培養液(PB1, M2, mCZB-hepes, ES培養液)、エレクトロポレーションに使う緩衝液、エレクトロポレーション用電極、ゲノム編集用ガイドRNA合成、Cas9mRNA, Cas9タンパク質、ドナーベクター構築等の購入、PCR用プライマー合成費、動物実験施設でのマウスの飼育費に充てる。また、得られた研究成果は、日本実験動物学会、日本繁殖生物学会及び日本分子生物学会等に発表する予定であるが、その旅費等に充てる。更に、論文化し、国際ジャーナルへの投稿料、校閲料等に充てる予定である。
|