研究課題/領域番号 |
26430209
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研究機関 | 大阪市立自然史博物館 |
研究代表者 |
松本 吏樹郎 大阪市立自然史博物館, その他部局等, 研究員 (90321918)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 外来種 / 分布拡大 / 市民調査 / 相互作用 |
研究実績の概要 |
分布情報に関してwebページ、メーリングリストおよびtwitterなどを利用して広く一般から募集を行い、206件の分布情報を得た。これらをもとに逐次分布図の更新を行い、情報提供を行った。この調査から2014年までに確認されていなかった京都市中部、奈良盆地、和歌山市、兵庫県明石市において新たな生息地が確認された。また淀川河川敷などでアカハネオンブバッタのみが多数確認される地点も見つかった。 アカハネオンブバッタの近畿地方での季節消長の特性を明らかにするためにモニタリングを行い、少なくとも5~6月にかけて1化目が発生する年2化以上の生活史をもつことが明らかになった。 アカハネオンブバッタの在来のオンブバッタへ及ぼす影響が本研究の大きなテーマの一つであるが、頻繁に観察される異種間交尾行動としての交雑の有無を、核とミトコンドリアの遺伝子マーカーを利用して調査した。その結果交雑によると考えられる遺伝子の浸透は見出されなかった。また異種間で実験的に交尾させた個体の産んだ卵からの孵化は観察されなかった。 南西諸島(石垣島、西表島、与那国島)およびハワイ諸島(オアフ島、ハワイ島)でサンプリングを行い、バーコード領域(mitochondria COI)の塩基配列に関して、各個体群の遺伝的な特性を明らかにした。さらにこれまでに得られている台湾と本州の個体群のデータに加えて解析を行った。その結果、南西諸島の個体群は台湾で見られる2つの系統のうち、ハプロタイプの多様性の高い一群と同一あるいは近縁であり、比較的古い在来の系統と考えられた。近畿に移入している個体群は台湾のもう一つの系統と一致または近縁であるが、これはむしろ台湾においても移入由来の可能性があり、中国などの他の分布域のサンプルを解析に加える事が必要である。ハワイの個体群は南西諸島の一部のものと一致し、当該地域からの移入が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
残念ながらアカハネオンブバッタの分布は急速に拡大しているが、分布拡大の状況調査は申請者の調査も、一般からの情報収集も順調に進んでおり、その過程は記録できている。 危惧されていたアカハネオンブバッタとオンブバッタの交雑は、予備的な異種間の交尾実験で孵化が見られなかったことや、遺伝子浸透が検出されなかったことにより、その可能性が低いことが示唆された。一方で、発生消長の調査により、アカハネオンブバッタは少なくとも年に2回発生しており、年1化であるオンブバッタより高い増殖能力を持つことが考えられた。このような条件で、異種間でもしばしば観察される長時間のマウント行動は正常な組み合わせでの交尾を阻害し、この繁殖干渉を通してオンブバッタの生息に関して負の影響を与えている可能性が示唆された。繁殖行動の一部であるマウント行動によって、在来種の繁殖に干渉しているのかという新たな研究課題が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
分布拡大のモニタリングに関しては、これまでと同様にwebページなどを利用して広く一般からの情報募集を行うとともに、分布状況の公表も同時に行う。調査は特に分布拡大の最前線である地域に注目して行う。 在来種であるオンブバッタへの影響を評価するために、これまでに試験的に行ってきた異種間の配偶行動の調査を多数の個体を飼育して行い、繁殖干渉等のオンブバッタへの影響について検証をすすめる。また交雑実験に関しても数を増やす。このため飼育と行動観察の比重がやや高くなる。 中国での調査を調整中であり、実施できればサンプルを解析に加えて、移入個体群の由来の推定に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
概ね予定通り使用したが、実験補助の人件費が若干未使用であった。
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次年度使用額の使用計画 |
異種交尾の行動観察に供する個体を得るため多数の個体の飼育が必要となり、飼育用具等の購入に使用する。
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