研究課題/領域番号 |
26440003
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
石黒 啓一郎 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (30508114)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生殖細胞 / 胚性幹細胞 / 着床前初期胚 / 染色体 / 減数分裂 / ES細胞 |
研究実績の概要 |
本研究では生殖細胞と着床前初期胚・胚性幹細胞に共通してみられる特殊な染色体配置を制御する機構の理解を目的とする。マウスES細胞においてZscan4陽性期に見られる染色体の核内挙動は、生殖細胞の減数分裂期のそれと類似性が見られる。Zscan4をコードする複数のパラログ遺伝子とpseude遺伝子は7番染色体の900kbの領域に重複して多重遺伝子クラスターを形成している。これらの遺伝子は塩基配列レベルで互いに高い相同性があるために、通常のgene targetingの適用が技術的に困難であった。よって、これまでマウス個体レベルにおけるZscan4の欠損解析は難航を極めていた。 Zscan4c遺伝子のイントロン内に特異的なターゲット配列とZscan4f遺伝子のイントロン内に特異的なターゲット配列に対するCrispe gRNAを用いて、Zscan4c-Zscan4f遺伝子間の600kbのクラスター領域を欠失させたES細胞を得ることが出来た。このZscan4c-Zscan4fクラスター欠失ES細胞を用いて、現在キメラマウスの作製を行っておりZscan4c-Zscan4fを欠失するstraight KOとして働くことが期待される。 また昨年度にZscan4c遺伝子のイントロン内に特異的なターゲット配列に対するCrispe gRNAを用いて、まずZscan4c遺伝子にGFPとloxP配列をノックインしたES細胞を樹立していた。このZscan4c-GFP-loxPノックインES細胞に対して、下流のZscan4f遺伝子にcherryとloxP配列をノックインすることにより、CreでconditionalにZscan4c-Zscan4f遺伝子間の600kbのクラスター領域を欠失させるタイプのES細胞の取得を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Zscan4は複数のパラログ遺伝子によってコードされているため、この遺伝子の機能欠損マウスを解析するには900kbの領域にまたがる遺伝子クラスター領域を欠損させる必要がある。しかしながらZscan4をコードする配列相同性の高い複数のパラログ遺伝子とpseude遺伝子がクラスターを形成していることが、Crispr Cas9システムを利用しても狙った箇所でのgene targetingを困難にしていた。今回Zscan4c-Zscan4f遺伝子間の600kbのクラスター領域を欠失させたES細胞を得ることが出来たことは、まずZscan4c-Zscan4fを欠損するマウスのin vivo解析に向けた研究材料が得られたという点で大きな前進であったと思われる。また、この組換えES細胞を取得する効率は低いながらも、Crispr Cas9システムを利用すればconditionalにZscan4c-Zscan4f遺伝子間の600kbのクラスター領域を欠失させるタイプのES細胞の取得もおそらく可能であろうとの道筋をつけたと考えられる。一連の研究は、これまで難航を極めていたマウス個体レベルにおけるZscan4遺伝子の欠損マウス解析に向けて大いに貢献したと考えれる。
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今後の研究の推進方策 |
Zscan4遺伝子は着床前初期胚で発現が見られることが分かっているため、conditionalにZscan4遺伝子を欠失できるマウスの取得も必要である。CreでconditionalにZscan4c-Zscan4f遺伝子間の600kbのクラスター領域を欠失させるタイプのES細胞の取得を試みているが、現行ではZscan4f遺伝子特異的なターゲット配列に対するCrispr gRNAがデザインできていないことが問題となっている。現行のCrispr gRNAはZscan4f遺伝子以外に、他のpseude gene内の配列もターゲットになり得るため、Crispr gRNAの箇所をZscan4f遺伝子ではなく、より下流側の別の領域に設定するなどの工夫が必要である。 またZscan4c-Zscan4f遺伝子間の600kbのクラスター領域を欠失させたキメラマウスは、まずstraight KOの解析を可能とするので、このマウス系統のin vivoでの解析を行う。とくに着床前初期胚の表現型解析に重点を置いて、動物個体内のZscan4の機能について検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末ぎりぎりの発注分の消耗品類を平成27年度分ではなく、平成28年度分からの支出に変更したため差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
差額216円分は平成28年度も引き続き消耗品に充てるように使用計画を立てる。
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