研究課題/領域番号 |
26440006
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
沓掛 和弘 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (90143362)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 鞭毛レギュロン / 遺伝子発現制御 / グローバル制御 / 制御ネットワーク / 鞭毛回転制御 |
研究実績の概要 |
本研究は,鞭毛遺伝子の調節因子をゲノムワイドに網羅的にスクリーニングすることを目的としており,主に大腸菌ASKAクローンを用い,高発現した場合に鞭毛レギュロンの発現に影響を与える非鞭毛遺伝子をスクリーニングする計画で開始した。前年度は,ASKAクローン全4123遺伝子について,鞭毛レギュロンのクラス3遺伝子fliCの転写量を指標としたスクリーニングを行い,高発現時にfliC遺伝子の発現に影響を与える遺伝子390個を同定した。このうち,170個が正の,220個が負の制御因子であった。 本年度の解析の過程で,正の制御因子については,高発現により増殖への影響が無視できないことが判明したので,以降は負の制御因子についてのみ解析を進めることにした。同定された負の制御因子について,クラス1遺伝子flhCおよびクラス2遺伝子fliAの発現への影響を解析することにより,それが作用する鞭毛レギュロンの遺伝子クラスの同定を行った。その結果,それらの大部分がクラス1に作用していることが判明した。クラス1はストレス応答系の作用点となっていることから,これらの因子の大部分は高発現によるストレス応答を見ているものと推定される。一方,クラス2に特異的に作用するものとして18個の遺伝子が同定され,そのうち13個は新規の因子であることが判明した。一方,クラス3に特異的に作用する制御因子はすべて既知のものであり,新規のものは同定されなかった。 本年度はさらに,ASKAクローンを用いて高発現した場合に運動性を阻害する遺伝子のスクリーニングも開始し,これまでに全4123遺伝子のうちの2520遺伝子の解析が終了した。現時点で既に,88個の運動性阻害遺伝子が同定されている。そのなかには,上記の解析で鞭毛遺伝子発現には影響が見られなかった遺伝子も多数含まれている。これらは鞭毛の回転機能制御因子であると推定される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に鞭毛レギュロンの発現に影響を与える制御因子のスクリーニングが終了し,今年度はその解析をさらに進め,それらのターゲットクラスの同定を終了した。この過程で,クラス2特異的に負の作用を及ぼす新規な制御因子が13個同定されたことから,鞭毛レギュロンのグローバル制御に新たな展開をもたらすことができたと考えている。一方で,正の制御因子については,増殖への影響が顕著なことから,本方法での解析は容易でないことが判明した。したがって,本研究では正の制御因子についてはその可能性を示すだけにとどめることとなった。 一方,前年度に十分進めることができなかった研究として,本年度新たに,高発現した場合に運動性を阻害する遺伝子のスクリーニングを進めた。これはまだ解析半ばではあるが,既に多数の負の制御因子が同定されている。これらのなかには鞭毛レギュロンの発現には影響を与えないものも複数含まれており,その作用機構に興味がもたれる。 このように,今年度は遺伝子発現制御と運動性制御の2つの指標によるスクリーニングが両方とも進展し,成果があがりつつあるので,全体として「おおむね順調に進展している」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたるので,第2の方法,すなわち運動性を指標としたスクリーニングを完了させることが最大の目標となる。その結果と第1の方法,すなわち鞭毛遺伝子発現を指標としたスクリーニングで同定された因子とを比較し,鞭毛機能制御因子の同定を進める予定である。鞭毛遺伝子発現には影響を与えないで運動性のみを阻害する因子は,鞭毛の回転に対していわゆるブレーキやクラッチとして機能する蛋白質と考えられ,細胞の生理活性と運動活性の共役因子として注目される。 一方,新たに同定されたクラス2遺伝子の発現制御因子については,それらの遺伝子の欠失株を構築し,鞭毛遺伝子発現への影響を解析する計画である。その上でさらに時間が許せば,それらの作用機構をin vivoおよびin vitroで解析する予定である。 なお,これらの網羅的解析データは当該分野で研究を進める研究者の今後の研究に対して非常に有用な情報を提供することになるので,適切な方法で公開することを考えている。
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