本研究では,鞭毛レギュロンのグローバル制御の全体像を解明することを目的としており,主に大腸菌のASKAクローンを用い,高発現した場合に鞭毛の機能と合成に顕著な影響を与える非鞭毛遺伝子をゲノムワイドで網羅的にスクリーニングする計画で開始したものである。当初の計画では,スクリーニング法として2つのアプローチをとることとしており,1つは鞭毛遺伝子の発現を直接測定する方法で,他方は運動性を指標とする方法である。初年度は,鞭毛遺伝子の発現を直接測定することにより新規調節因子の網羅的同定を試み,ASKAクローン全4123遺伝子についての解析を終了した。第2年度は,運動性を指標とし,鞭毛機能に阻害的に働く遺伝子の同定を通しての新規制御因子の網羅的同定を試み,ASKAクローンの約6割の遺伝子についての検定を行った。 本年度は,ASKAクローンの残りの遺伝子について,運動性を指標とした検定を完了させることをめざした。その結果,前年度分と合わせ,ASKAクローンのすべての遺伝子の一次検定を終了し,鞭毛機能に阻害的に働く可能性のある遺伝子として,約150個の非鞭毛遺伝子を同定することができた。このうちの1つydiV遺伝子の産物は鞭毛レギュロンの負の制御因子として既知のものであるが,本研究の方法においてはこれが最も顕著な阻害効果を示すのに対して,他はそれより弱い阻害効果であることが判明した。また,予想通り,c-di-GMP合成酵素の遺伝子とされるものの多くは,高発現により顕著な運動性阻害効果を示すことが確認された。一方,前年度に予備的知見として指摘したように,運動性阻害効果で同定された遺伝子のなかには,初年度の鞭毛遺伝子の発現を指標としたスクリーニングでは同定されなかった遺伝子が多数含まれていることが確実となり,鞭毛の形成ではなく機能をターゲットとする非鞭毛遺伝子が存在することが明らかとなった。
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