染色体構築は細胞分裂に伴う遺伝情報の継承に不可欠なプロセスである。本研究の最終的な目標は、分裂期染色体が作られる分子メカニズムを理解することであり、これまでに精製因子を使って染色体を試験管内に再構成するという画期的な研究成果を発表した。この再構成系はカエル精子核とわずか6種類の精製タンパク質(コンデンシンⅠ、トポイソメラーゼⅡ、ヒストンH2A-H2B、3種類のヒストンシャペロン)で構成される。いずれかのタンパク質を欠いたときや変異体に置き換えたときの影響を比較することにより、各々のタンパク質の機能の詳細な解析が可能になった。しかし、カエル精子核にはゲノムDNA だけでなく、ヒストンH3-H4が含まれているため、これらのヒストンの役割はもとより、染色体構築にヌクレオソームが必要であるのかという根源的な疑問を解くことはできなかった。こうした技術的な制約を取り払い、再構成系を用いた解析をさらに発展させるために、ヒストンをほとんど含まないマウスの精子核を染色体再構成系に導入することを考案した。2016年度は、そのための予備実験に着手した。すなわち、カエル精子核を用いた場合と同様に、マウスの精子核を(精製タンパク質ではなく)カエル卵抽出液と混和し、インキュベートすると分裂期染色体が形成できることを確認した。次に、このプロトコルにおいて、マウスの精子核由来のゲノムDNA上にヌクレオソームを形成させるのに必要なヒストンシャペロンAsf1を除去した卵抽出液を用いて同様の実験を行った。その結果、驚くべきことに、ヌクレオソームを含まなくても、染色体様構造が作られることが明らかになった。さらに、この特徴的な構造の詳細な詳細な解析により、ヌクレオソームとコンデンシンの機能的相互作用が染色体構築に重要であることを見出した。一連の実験から得られた成果を学術誌に投稿した(査読中)。
|