核DNAのチェックポイントを活性化すると、ミトコンドリアDNA(mtDNA)のコピー数の増加はミトコンドリアの相同DNA対合酵素Mhr1に依存する。しかし、この際、mtDNAコピー数が増大する生理学的な意義が不明である。本年度では、Mhr1の活性部位に点突然変異を導入すると、mtDNAのコピー数が半分以下に減少すると細胞のATPレベルも低下することを明らかにした。この結果からmtDNAのコピー数が細胞のATPの保有量に密接に関係することが示唆された。チェックポイントでmtDNAのコピー数の増大はATPを増量することでATPを必要とする核DNAの修復酵素の活性に寄与すると考えられる。核DNAの損傷修復が完成されなければ細胞の生存率に影響を及ぼすと考えた。そこで、Mhr1依存型mtDNA複製によるmtDNAコピー数の変動が酵母の生存率に与える影響を調べた。その結果、野生型酵母細胞の生存率と比べてmtDNAが完全に欠けた細胞のそれより高かったが、mhr1-1変異を持つことでmtDNAコピー数が半減した細胞の生存率が著しく低下したことを見出した。 Rad52欠損細胞においてRad51依存的経路がDNA二重鎖切断のような核DNAの損傷修復を担うこととなる。チェックポイント活性化の際、Rad51とRad52依存経路に対してmhr1-1変異が与える影響について細胞の生存率を指標に調べた。そのためにRad51欠損変異、或いはRad52欠損変異と、Rrm3欠損変異とmhr1-1変異との三重変異を持つ細胞株をそれぞれ構築した。その結果、Rrm3欠損変異とmhr1-1変異を持つ二重変異細胞にさらにRad52欠損変異を導入すると酵母の生存率が最も低下することを明らかにした。これらの結果からMhr1の機能がATPを要求するRad51の活性維持を通して細胞の生存により大きく寄与することが示唆された。
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