研究課題/領域番号 |
26440014
|
研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
三戸部 治郎 国立感染症研究所, 細菌第一部, 主任研究官 (40333364)
|
研究分担者 |
柳原 格 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター(研究所), 免疫部門, 部長 (60314415)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | バクテリア細胞骨格 / 多量体形成能 / ジスルフィド結合 |
研究実績の概要 |
赤痢菌の病原性に必須なIII型分泌装置の発現を指標に同定したRNA結合能をもつYfgAは、驚くべきことに桿菌の桿状構造を構成する“細菌の細胞骨格蛋白”の一つのRodZと同一の蛋白として報告されている。本研究はRNA結合能と構造解析を進めると共に、DNA結合能を調べることで、これまで報告されていないRodZの機能を明らかにする。今年度は最も解析が進んでいる、RodZの多量体形成能とその機能の相関を調べることを重点的に進めた。 これまでの解析から精製したRodZは多量体を形成しており、還元剤の存在下で単量体に解離することが示されている。そこで生体内で多量体形成をしているか調べるため、ジスルフィド結合を形成すると考えられるシステイン残基をグリシンに置換した変異体を作製した。野生型rodZを発現プラスミドにクローニングし2ヶ所あるシステインを置換した変異遺伝子をrodZ欠損株に導入して形態の観察を行ったところ、置換数が増加するにつれ、形態の変形が顕著になった。さらにRodZが影響を与える病原遺伝子であるinvEの蛋白発現を観察したところ、野生型では発現が抑制される低温条件で、全置換した変異体では抑制が起こらないことが示され、RodZの正常な機能には生体内でも多量体形成が必須であることが示された。 次いでRodZに対する抗体の評価を行い、免疫蛍光染色で高感度にRodZを検出することができることを明らかにした。これまで蛍光蛋白を使わずにRodZの局在を観察することは困難であったが、自然な状態での観察に道を拓くことができた。そこで、この抗体が透過型電顕の免疫染色でRodZを検出できるか検討中である。また、この抗体染色を用いてシステイン残基を置換した変異体でRodZが野生型と異なる局在を示すか、共焦点顕微鏡で観察する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者は本研究と平行して、所属する国立感染症研究所の国際協力事業・応用研究として、赤痢菌で開発した血清型に依存しないユニバーサルワクチンの解析を進めている。これは、2005~2006年文部科研費(若手B)”赤痢菌タイプIII分泌装置のレギュレーターInvE蛋白発現の転写後調節機構の解析”で同定されたhfq変異が、赤痢菌を弱毒化すると共に病原遺伝子を過剰発現させることを利用し、動物実験レベルであるが血清型が異なる赤痢菌群に対してワクチン効果を示すことを明らかにした。感染症対策として有効なワクチン候補を示すことは喫緊の課題であるため、今年度はその論文化に集中したが、結果として予想以上の時間を要した。また、以下に示すようにRNA結合に関し当初の予想とは異なる結果となったことから、進度的には不満足なものとした。 これまでRodZとRNAの結合を網羅的に調べ、磁気ビーズで沈降した菌体のRodZからmRNAを抽出しリアルタイムPCRで検出を行い、約31種類の遺伝子で実際にinvE-mRNAのようにRodZとクロスリンクし、沈降することがすでに明らかになっている。RodZのRNA結合活性がこれらの遺伝子の発現に関与するか調べるため、任意の8遺伝子をlacZ遺伝子と翻訳融合させたレポーターを作製し、野生型とrodZ欠損株での発現レベルを調べた。ところがRodZが発現に影響を与えることが明らかなinvE遺伝子のような、大きな発現レベルの変化を示すものは見られなかった。この結果はmRNAとの相互作用が常に発現量の変化を伴うものではないことを示唆した。一方、上記の31遺伝子の多くが内膜、外膜に局在する蛋白であることから、mRNAとの相互作用はmRNAの局在を含む何らかの生体機能と関連している可能性が高いと考えられた。
|
今後の研究の推進方策 |
本課題の研究期間を通じて、他の業務、研究活動に予想以上の時間配分を要したため、最終年度の延長を行った。今後は順序にとらわれず最も進んでいる複合体形成について論文化を急ぐと共に核酸結合活性についてデータの収集を継続する。また、前述の応用研究であるユニバーサルワクチンを弱毒化させる変異遺伝子であるhfqと本課題のrodZは赤痢菌の病原性制御機構では同じ作用をもつ因子のため、ワクチンの改良のためにも、その解析は重要性を増している。 この一年でRodZの観察のツールとしての抗体が充実してきた。当初、ペリプラスム領域にタグを付加したRodZ蛋白とDNAの局在をSEMの割断像で観察する計画であったが、タグに抗体の結合不良で断念した経緯がある。今回明らかになった抗体はRodZの細胞質領域を認識するもので、これを用いて共局在の観察を試みる。興味深いことに、この抗体はDNAを沈降させる活性が最も高いものと同じであった。これまで、抗体の枯渇の心配から抗体を大量に用いるDNAの沈降法を躊躇していたが、この機会により特異性の高い磁気ビーズを用いた検出を試みる。 前述のようにRodZのRNA結合能が、mRNAの局在と関連していると仮定すると、in situハイブリダイゼーションなどの方法で局在が可視化できれば理想的である。細菌では、ある程度の転写量のあるtmRNAをターゲットとしたin situハイブリダイゼーションは報告されているが、発現量が限られた個々のmRNAの局在を観察した例はほとんど無い。この証明にはこれまでにないレベルの感度と解像度の検出法が必須であると考えられ、方法論だけでも新規な研究ジャンルとなる可能性がある。時間的に余裕があれば低レベルの発現量を克服するためチミジドシグナル増幅法を利用したin situハイブリダイゼーションを試みる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
期間延長を申請したため、次年度の当研究に関連する予算として確保した。
|
次年度使用額の使用計画 |
当研究に関連した出張、研究発表、試薬の購入に使用する。
|