研究課題
組織の形成や未分化細胞の維持、癌化といった現象の解明には細胞の分化と増殖を統合する制御機構の理解が重要である。細胞の分化、増殖は厳密に調節された転写機構によって制御されているが、これら両者の統合的な制御機構については不明な点が多い。この制御機構に必須な転写制御領域のクロマチン構造変換機構の解析は、分化と増殖のエピジェネティック制御を理解する上でも重要な課題の一つとなっている。我々はSUMO化依存的にクロマチン構造変換するARIP4を発見し、新たにプロモーター上で細胞周期制御複合体E2F6複合体と相互作用することを見出した。本研究では細胞周期制御複合体と結合するARIP4の細胞分化過程における分子機構を明らかにすると共にその生理的意義を明らかにすることを目的とした。本年度は特に、ゲノムワイドなE2F6とARIP4の複合体の挙動を明らかにするために、培養細胞を用いてゲノムワイドに結合を調べる手法であるChIP-seqを行うと共に、クロマチンの構造変換をゲノムワイドに調べることができるFAIRE-seqを行った。その結果、ARIP4は全ゲノムに対して約5000箇所の結合が見られ、それらの80%以上がプロモーター領域に結合した。さらにARIP4を欠損させた場合、ARIP4の結合領域の約70%でクロマチンがDNA切断酵素感受性、すなわちクロマチンが開いていることが判明した。この結果は、ARIP4が遺伝子発現制御に関わると共にクロマチンを閉じる過程に関わっていることを強く示唆する。またE2F6の標的遺伝子に対して調べたところ幾つかの遺伝子においてARIP4が特異的に結合していることが判明した。このことからE2F6とARIP4は細胞内で確かに複合体を形成しクロマチン制御を行っていると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本年度は予定していたARIP4の結合領域のゲノムワイドな解析を行い多くの情報と知見を得ることに成功した。またE2F6の標的遺伝子上にE2F6とARIP4の複合体形成を確認できたことから概ね目標は達成できた。次年度に予定している組織を用いた実験のためにはクロマチン免疫沈降法等の実験法の最適化が必要であるが、それについても培養細胞を用いた実験系と、少ない個体数による予備実験にて進行中である。
平成27年度はこれまでのゲノムワイドの解析を踏まえて、マウス胚心筋組織を用いたARIP4複合体の精製、マウス胚心筋組織を用いたゲノムワイド解析を主に行う予定である。実験手法はこれまでに培養細胞を用いた実験で確立されており問題は無い。しかしながら、ARIP4遺伝子欠損マウスのサンプル収集がARIP4欠損によって成育不全になるため時間がかかることが予想されている。そのためマウス心臓組織での解析は野生型の実験を中心に進め、ARIP4遺伝子欠損マウスの心臓組織の解析は組織が十分に準備できしだい解析をすすめるものとする。これらの問題については継続的に組織を回収することで問題を克服できると考えている。
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Nature Communication
巻: 5 ページ: 3634
doi:10.1038/ncomms4634