研究実績の概要 |
CaポンプはATP加水分解に共役してCaを輸送する。Ca輸送サイクルはリン酸化中間体(EP)の形成、異性化、加水分解を経由する。この異性化(E1PCa2→E2PCa2→E2P)では、触媒部位をもつ細胞質領域(A, P, Nの3ドメインが構成する)のAが大きく回転してP(リン酸化ドメイン)と結合する。そしてこの構造変化は膜ドメインのCa輸送部位に伝わり、E2PCa2の輸送部位に閉塞されたCaが内腔に放出される。膜ドメインからAに繋がる長いヘリックスM2は、概ね膜内領域M2mと細胞質領域M2cに区別される。本研究では、これらの連結部分にあるGly105の構造的役割を部位特異的変異で調べた。GlyをAlaに置換して柔軟性を下げると、ATP分解に共役したCa輸送が消失した。このときE1PCa2とE2PCa2へのCa閉塞が障害された。また、G105AはEP異性化を強く抑え、逆にE2→E1を促進した。しかし、E2P加水分解速度には影響しなかった。次に、GlyがM2上で正常な機能を果たす位置を調べるため、G105A/(他の残基→Gly)のダブル置換体を多数作成した。これらのうちG105A/A112Gのみにて、Ca輸送/ATP分解の共役、E1PCa2とE2PCa2へのCa閉塞、EP異性化とE2→E1の速度を野生型と同じレベルまで回復した。M2上で、A112はG105から2巻上にあり、G105とほぼ同じM4方向に向いている。従って、細胞質領域と膜ドメイン間の構造変化の伝達では、M2が特異的反応段階で特定方向へ屈曲・伸長し、また別の段階でその歪みが解消することが必要であると考えられる。G105は連結部分に柔軟性を与え、EP異性化/Ca放出では、Aの大きな動きに伴うM2への歪みがG105屈曲・伸長で吸収されることが正常なCa-gatingとCa輸送/ATP分解の共役に重要であると考えられる。
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