研究課題
本研究では研究代表者が開発した19F標識技術とIn-Cell NMR法を用いて,生きた細胞内におけるタンパク質の動的構造を解析する技術を確立し,これまで試験管内で解析されてきた高次構造レベルでの作用機構を,本来タンパク質が機能している細胞内の環境下で解明することを目的とする。本研究の平成28年度の成果は以下の通りである。平成27年度に引き続きトリフルオロ標識アミノ酸のタンパク質への導入を検討した。とくに27年度に部位特異的導入に成功したトリフルオロフェニルアラニンの活用を推進し,タンパク質の様々な部位への導入をすすめた。また酸化ストレス応答タンパク質の細胞内環境下での構造機能解析のため,各種発現系を検討するとともに,細胞内での実験の前準備として19F標識アミノ酸を含めた各種安定同位体で標識したタンパク質を合成し,in vitroでの相互作用実験を行い良好な結果を得た。一方,生体の状態を最もよく反映する指標として近年注目される代謝物に関わる各種酵素の細胞内における動的構造を観測するため,同様に各種発現系の構築を進めるとともに,遺伝子変異に伴う各種代謝酵素のアミノ酸変異が機能に与える影響をNMRメタボローム解析で明らかにした(Sci. Rep. 2017)。今後はこれら変異を持つ酵素の細胞内環境下での働きの違いをIn-Cell NMR方で明らかにしていく。以上の成果は,本研究の目的である細胞内におけるタンパク質の振る舞いを解明するための基盤となる成果であり,今後の研究の進捗に大きく貢献するものである。
2: おおむね順調に進展している
本研究では研究代表者が開発した19F標識技術とIn-Cell NMR法を用いて,生きた細胞内におけるタンパク質の動的構造を解析する技術を確立し,これまで試験管内で解析されてきた高次構造レベルでの作用機構を,本来タンパク質が機能している細胞内の環境下で解明することを目的とする。平成28年度は部位特異的19F標識技術の応用を進めると共に,新たな解析対象となる各種タンパク質の標識体の合成に成功し,本研究の目標である細胞内での相互作用様式の解析法の確立にむけた基盤を確立した。
細胞内での相互作用様式の解析法を確立するため,各種トリフルオロ標識タンパク質を合成すると共に,細胞内に導入してNMR測定を行う。また細胞内における構造情報の取得のため,常磁性効果を活用したIn-Cell NMR法の開発を進め,効率的な構造情報の取得を目指す。一方In-Cell NMR法に使用する細胞の特性を解析し最適化するため,メタボローム解析を活用して細胞培養環境の検討を行う。
当初の計画では平成28年度は各種トリフルオロ標識アミノ酸を含む様々な標識タンパク質を合成し細胞内に導入して,細胞内環境下におけるタンパク質の動的構造変化を解析する予定だった。これまでにVRK1を含む各種タンパク質の安定同位体標識に成功し相互作用解析を行ってきた。しかし装置の使用時間の制限のため細胞内導入の条件検討に時間がかかり,次年度に細胞内環境下におけるタンパク質基質相互作用とそれに伴う動的構造の解析を行う必要が生じたため,次年度使用額が発生した。
これまでに開発した各種19F標識タンパク質を細胞内に導入し,NMRによる細胞内の動的構造変化と基質認識の解析を進める。次年度使用額は19Fを含めた安定同位体標識試薬や細胞培養試薬類などに充てる予定である。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Sci. Rep.
巻: 6 ページ: 31463
doi:10.1038/srep31463
Plos One
巻: 11 ページ: e0160555
10.1371/journal.pone.0160555
J. Epidemiol.
巻: 26 ページ: 493-511
10.2188/jea.JE20150268
https://jmorp.megabank.tohoku.ac.jp/