研究課題
ホスファチジルイノシトール3リン酸(PI3P)はオートファジー、栄養シグナル伝達、小胞輸送などに関与する重要なイノシトールリン脂質分子種であり、個体でのPI3P 産生酵素の欠損は自己免疫疾患、心肥大、先天性白内障など、多岐にわたる重篤な疾患を引き起こす。一方、PI3P 脱リン酸化 (分解) 酵素は試験管内の活性から11 種類も存在する事が予想されているが、個体における生理的意義はおろか、細胞内で実際に PI3P脱リン酸化活性があるのかすらほとんど明らかになっていない。申請者は細胞内活性が不明な10種類のPI3P 分解酵素の遺伝子改変マウスを独自に樹立した。本研究では独自のツールを用いて、未だに不明なPI3P 分解酵素群の生理機能を探ることで各酵素の生理的意義及び PI3P の機能の多様性を明らかにする事を目的としている。2年目では実験計画書の予定通り、各遺伝子改変マウスの解析を進めており、初年度に見出した心室壁肥厚のみならず、自然発症で発ガンを引き起こすマウスを新たに見出している。ただし、自然発症には時間がかかることから、他の発がんモデルマウスと掛け合わせることにより早期に解析できるように交配を進めているところである。一方、予想していた免疫疾患および大腸疾患については現時点で、異常は認められなかった。今後は各臓器のPIPs測定と臓器臓器疾患との関連について解析を進めることで、各代謝酵素の生理的機能を明らかにする。これらを明らかにすることで得られる新たな分子病態の知見は医学的にも意義を持つものと考えられる。
3: やや遅れている
各代謝酵素が欠損したMEFを用いて生理的基質が何かを明らかにする予定だったが、実施が遅れている。一方、各遺伝子欠損マウスの解析から、それぞれのマウスが異なる臓器で異なる病態を示しているために、普遍的な細胞機能解析ができるMEFよりも各臓器でのPIPs測定が望まれる状況となっている。よってMEFの解析よりもMSを用いて各臓器で生理的基質を明らかにする実験を優先的に実施中である。
各遺伝子欠損マウスは多様な臓器で異なる病態を呈している。これらの原因を明らかにするためには現在のところ不明な点が多い生理的な基質を同定することが必須である。これらを解析するための新たなMSを用いた各PIPs測定系はラボで確立しつつあり、MSを用いることで何故その臓器で病態が引き起こされるのかをイノシトールリン脂質代謝の観点から明らかにしていきたい。病態の解析に関しては残り1年であることを考え、これまでの見出した発がんおよび心疾患の解析を中心に行う。発がんに関しての解析はがんの自然発症を引き起こすものの時間がかかりすぎるために、他の発がんモデルと掛け合わせることにより発症時期を早めさせて解析を行う予定である。
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Cancer discovery
巻: 5 ページ: 730-9
10.1158/2159-8290.CD-14-1329.