研究課題/領域番号 |
26440024
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
谷 一寿 名古屋大学, 細胞生理学研究センター, 特任准教授 (20541204)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 構造生理学 / 電子線結晶学 / 二次元結晶 / アクアポリン-4 / 極低温電子顕微鏡 / 水透過機構 |
研究実績の概要 |
(A)脳における水チャネルaquaprin-4(AQP4)特有な水透過機構の解明:二価カチオンによりチャネルが閉じた状態のAQP4二次元結晶を作製できており、極低温電子顕微鏡像を用いて二次元結晶の実像を収集することで、直接位相情報を得て6Å分解能での立体構造解析を行い、明瞭な膜貫通へリックスを観察することができた。更に同じ分解能でのチャネルが開いた状態のAQP4と比較するために、二次元結晶の実像を収集し構造解析を進め、最終的に2つの立体構造を比較したところ、対応するヘリックスの位置や傾きに大きな変化はなかった。更に細かく見ていくと、細胞質側のCys残基付近にデンシティの差が認められる場所を特定することができた。この位置は、当初予想されていた2か所のカチオン結合部位の1つに相当するが、直接ポアを塞ぐ位置ではないため、間接的に作用して水透過を抑制していることが示唆された。
(B)アストロサイトのエンドフィートでみられるAQP4のアレイ形成および調節機構の解明:電子回折図形由来のデータでは、アレイ形成に重要なN末端側のデンシティを確認できないことから、極低温電子顕微鏡像を用いてより高い分解能の二次元結晶の実像を収集できるように試みた。特に、最近脚光を浴びているdirect electron detector(DED)と呼ばれる直接電子をカウントできる記録装置(Gatan社のK2 Summit)を、効果的に使用できるようにデータ収集条件および画像処理条件を探索した。まだ最適な条件ではないものの、倍率1万倍で6Å分解能まで解像できることから、今後の条件等の改良によって倍率を上げても良い実像が記録できるようになれば更なる分解能の向上が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
直接電子をカウントできる記録装置DEDが使用できるようになり、ナイキスト周波数限界以上の分解能でデータを収集することが可能となり、実像による三次元再構成構造の高分解能化への道が開けた。また、二価カチオンの添加によるグリット上での局所的な大幅な濃度変化による結晶性の悪化が予想されたが、試料調整時の湿度調整等を含めた試料作成方法の改善に努めることで安定的に実像データが収集できるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
水を透過しない閉状態のAQP4の二次元結晶を作製でき、6Å分解能ではあるものの二価カチオンの結合に伴う細かなコンフォメーション変化を観察することができたのは、今後の原子分解能での構造解析を遂行する上で大きな朗報である。特に、本年度実施した水透過アッセイの実験結果からも、結晶化条件の二価カチオン濃度では水透過が阻害されているにも関わらず、この分解能では大きなコンフォメーション変化が認められなかったことから、今後の原子分解能モデルによって初めて阻害機構が解明されることになるであろうことが予想される。一方で、水透過アッセイの実験結果により、野生型よりも低い濃度で水透過の阻害効果が高い変異体も見つかってきており、透過抑制には複数の機構が存在する可能性も示唆され始めた。そのため、この変異体に関しても閉じた状態の構造解析を試みる。また、これらの構造解析における根幹として位置づけている電子線結晶解析ソフトウェア開発も順調に進めており、更に迅速で正確な構造解析結果が得られることが期待できる。
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