転写因子 Sp1 による遺伝子の転写活性化には、同蛋白質のホモオリゴマー形成ならびに基本転写因子群 TAF4 とのヘテロオリゴマー形成の両方が重要である。これまでに、高分解能溶液NMRにより Sp1 のホモオリゴマー形成に関与する領域を同定してきた。本研究は、これを発展させ Sp1 と TAF4 の相互作用を解析し、ホモならびにヘテロな相互作用がどのように転写活性化に関与しているのかを明らかにする。また Sp1 は、生理的条件下において特定の立体構造を形成すること無くホモおよびヘテロオリゴマーを形成することが申請者により見いだされている。立体構造の形成を伴わずに、どのようにして相互作用の相手分子 (Sp1 自身、および TAF4) を認識するのかを明らかにすることにより、これまでに知られていない新規な相互作用形式が明らかになると期待される。その目的のため、平成28年度は以下の研究を実施する予定であった。 5.緩和測定による化学交換の解析 高分解能溶液NMRにおいて、近年開発された緩和分散法を用いて QB の自己会合、および QB-TAF4 間の相互作用を詳細に解析することにより、解離・会合に伴う動的立体構造変化を、残基レベルの空間分解能で明らかにする。 計画は順調に進行し、Sp1 の QBc ドメインおよび TAF4 の Q1 ドメインのうち、平成27年度までに見いだされた相互作用領域を構成するアミノ酸残基について部位特異的変異を導入することにより、NMRピークが特異的にシフトすることを見いだした。このことから、Sp1-TAF4 間の相互作用が「速い」解離・会合の平衡として存在するという重要な知見が得られた。
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