研究課題/領域番号 |
26440026
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
永田 崇 京都大学, エネルギー理工学研究所, 准教授 (10415250)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | APOBEC / NMR / Vif |
研究実績の概要 |
Vif複合体のNMR構造・分子運動解析に向けて、VifとCBFβ、ユビキチンリガーゼ複合体のE.coliによる共発現系を各種構築した。構成タンパク質の発現誘導時期をずらすために、IPTGまたはarabinoseで発現誘導をかけられるプラスミドベクターを利用した。これにより、Vif複合体中CBFβのみを安定同位体標識化することが可能となった。現在同様にしてVifのみを安定同位体標識化できる系を構築しているところである。以前、Hsp70がVif複合体に結合すること、そしてそれにより、A3GのVifによる分解が抑制されることがin vivo実験により示された。そこで、Hsp70のE.coli発現及び精製方法を確立した。現在、上記のVif複合体発現系を用いて安定同位体標識化Vif複合体を調製し、Hsp70とのケミカルシフトパーターベーション実験(CSP)を行い、結合界面を同定する準備を進めている。また、Hsp70の点変異体、もしくは断片化したペプチドを作製し、CSP実験を行うことで同様に結合界面を同定する計画を立てている。他方、A3Gについて脱アミノ化酵素としての一本鎖DNA(ssDNA)への作用機構を解析した(PLoS One, 10, e0124142, 2015)。A3GはssDNA上、5’端領域に位置するシトシントリプレット(CCC)を高い頻度で脱アミノ化することが知られている。一箇所または複数箇所に核酸誘導体を施した各種ssDNAを合成し、A3Gの酵素反応に供した。酵素反応は、我々が独自に開発した実時間NMR法により追跡した。その結果、A3Gの脱アミノ化は、CCCを中心に置いた連続した5残基の糖と塩基を認識することで進むこと、また、A3GがssDNAのリン酸骨格の上をスライディングすることが明らかとなった。一方、癌タンパク質:阻害ペプチド複合体について、連結体とすることでNMR立体構造を決定した(PLoS One, 9, e109163, 2014)。このノウハウは本研究課題にそのまま適用することが出来る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず各種試料の調製方法を確立した。Vif複合体の構成タンパク質について、個別にNMRシグナルを観測することを目的に、一つのタンパク質のみ安定同位体標識化し、それ以外のタンパク質は非標識で得られるE.coli共発現系の構築を行った。Vif複合体の構成タンパク質をIPTGにより同時に共発現させる系は既に構築していたので、二段階でタンパク質の発現誘導を行える様に改変した。この系では、一段回目はarabinose、二段階目でIPTGにより発現誘導させることとした。はじめに、一段回目でCBFβを、二段階目でそれ以外を発現させるE.coli共発現系を構築した。これによりCBFβのみ安定同位体標識化することが可能となった。現在は、二段階目でVifのみを、一段回目でそれ以外を発現させる系を構築しているところであり、これを使えばVifのみの安定同位体標識化が可能となる。Vifの阻害剤候補であるHsp70のE.coli発現系を構築し、大量調製方法を確立した。Hsp70は、Vif複合体との結合部位が明らかとなれば、その領域を含む断片化領域が阻害ペプチドとなると考えられている。今回Hsp70調製方法を得たことにより、Hsp70とVif複合体の結合部位を同定するための材料が揃った。一方、Vif複合体と、それが標的とするAPOBECファミリータンパク質との相互作用様式についても原子レベルの知見を得ることが必要である。そこで、A3Gに加え、A3FのE.coli発現系を構築し、調製方法を確立した。目下A3FとVif複合体の結合実験の準備を進行している。他方、癌タンパク質:阻害ペプチド複合体について、連結体とすることでNMR立体構造を決定した(PLoS One, 9, e109163, 2014)。ここで蓄積されたノウハウは、本研究において、複合体の立体構造決定の際に活用される。以上の様に、本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度確立したVif複合体の各種E.coli共発現系を用いて、構成タンパク質を個別に安定同位体標識化し、NMR構造・分子運動解析に供する。本研究では、Vif複合体に対するRNAアプタマーを得ることを計画している。SELEXを行ったところ、非選択的なRNAの結合が見られた。これは、Vifが高度に塩基性であるためだと考えられ、今後セレクションの際の溶液条件を検討していく必要がある。他方、Vif複合体とHsp70、Vif複合体とA3GまたはA3Fの結合解析を進行させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度にVif複合体の構成タンパク質選択的安定同位体標識を行い、大量調製、NMR解析を行う予定であった。また、この結果を基に国際学会で発表することも予定していた。しかし、計画を変更してHsp70、A3FなどVif複合体に結合するタンパク質のE.coli発現系構築及び調製方法の確立を行ったため、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度に確立したVif複合体の構成タンパク質選択的安定同位体標識化方法を用いて、大量調製、NMR解析を行う。また、Hsp70、A3Fも本年度確立した調製方法を用いて大量調製を行う。そして、Vif複合体、Hsp70、A3Fなどについて結合実験及びNMR解析を行い、国際学会で得られた成果の発表を行う。未使用額は次年度の助成金と合わせてその経費に充てることにしたい。
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