研究課題/領域番号 |
26440026
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
永田 崇 京都大学, エネルギー理工学研究所, 准教授 (10415250)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | APOBEC / NMR / Vif |
研究実績の概要 |
HIV1のVif複合体は、抗HIV1因子APOBEC 3Gタンパク質(A3G)をユビキチン化して分解に導く。今年度はまず、Vif複合体とAPOBECファミリータンパク質、またはVif複合体とその阻害剤について、NMR法により相互作用、立体構造及び分子運動の解析を行うために、試料調製方法をさらに検討した。複数のタンパク質からなる複合体の系にNMR法を適用するためには、情報を得たいタンパク質のみを安定同位体標識化することが有効である。昨年度までは、Vif複合体に含まれる構成タンパク質のうち、CBFβのみ安定同位体標識化できることに成功していたが、今年度はさらにVif、EloB/EloCまたはCul5について各々単独で安定同位体標識化できる調製方法を確立した。 A3Gは、N端とC端にデアミネースドメインを有するが、Vif複合体はA3GのN端ドメイン(A3G-NTD)に結合することが知られている。一方、C端ドメイン(A3G-CTD)には脱アミノ化活性があり、我々はこれまでA3G-CTDの立体構造及び酵素活性解析を行ってきた。今年度は、Vif複合体のA3G-CTDの酵素活性に対する効果を調べた。その結果、Vif複合体は、A3G-NTDのみならず、A3G-CTDに対しても機能の阻害効果があることを明らかにした。 一方、APOBECファミリータンパク質のうちAPOBEC 3F(A3F)も抗HIV1活性があり、Vif複合体の標的となることが知られている。またA3F-CTDは、脱アミノ化活性を持つこと、またVif複合体が直接結合することなどが報告されている。昨年度はこのA3FのC端ドメイン(A3F-CTD)の調製に成功していたが、今年度はコンストラクトを改良し、より溶解度の高いA3F-CTDを得た。そして、脱アミノ化活性及びVif複合体による機能の阻害効果について検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Vif複合体の各構成タンパク質、Vif、EloB/EloC、Cul5、CBFβについて、各々単独で安定同位体標識化することの出来るE. coliタンパク質発現系を構築した。昨年度確立していた共発現系、すなわち、一段回目はarabinose、二段階目はIPTGにより発現誘導できる系を応用した。一段階目で発現するタンパク質を標識化する場合は、15N標識化が可能であり、二段階目のタンパク質を標識化する場合は、15N標識化、13C標識化または15N,13C二重標識化することが可能となる。目下この系を使って、Vif複合体とAPOBECファミリータンパク質、またはVif複合体とその阻害剤について、NMR法により相互作用、立体構造及び分子運動の解析を行う準備を進めているところである。 我々が開発したNMRリアルタイムモニタリング法を用いて、A3G-CTDの酵素活性に対するVif複合体の効果を調べた。A3G-CTDと標的配列であるシトシントリプレット(CCC)を2つ有する一本鎖DNAを混合し、さらにVif複合体を加えてA3G-CTDの脱アミノ化活性と3'→5'極性を測定した。その結果、Vif複合体の量が多いほど、A3G-CTDの脱アミノ化活性及び3'→5'極性の低下が見られた。Vif複合体が直接一本鎖DNAに結合することを確認したが、現在Vif複合体とA3G-CTDの直接の結合の有無も検証しているところである。 昨年度構築したA3F-CTDのE. coli発現系を元に、複数の点変異体を導入した。その結果、より溶解度の高いA3F-CTDを得ることに成功した。得られたA3F-CTDについて、ウラシルグリコシラーゼアッセイ及びNMRリアルタイムモニタリング法を行い脱アミノ化活性があることを確認した。また、このA3F-CTDに15N標識を導入することに成功し、良好なHSQCスペクトルを得ることにも成功した。
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今後の研究の推進方策 |
Vif複合体に対するRNAアプタマーを得ることを計画しているが、目下SELEX法の条件検討を行っているところである。また、Vif複合体とHsp70の結合解析も引き続き行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、Vif複合体の各構成タンパク質を各々単独で安定同位体標識化するための系を構築した。そして、非標識化Vif複合体を用いてより純度の高い精製方法の確立を行ったため、安定同位体標識化を次年度に行うことに計画を変更した。A3Fについても、より溶解度を上げるために変異体を作製・スクリーニングしたため、安定同位体標識化及び大量調製を次年度に行うことに計画を変更した。他方、SELEX法によりRNAアプタマーを得るための条件検討を続けており、RNAアプタマーを得られていない。そのため、RNAアプタマーの大量調製を次年度に行うことに計画を変更した。以上の理由で未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
Vif複合体の構成タンパク質を各々単独で安定同位体標識化し、大量調製、NMR実験を行う。同様に、A3F、SELEXで得たRNAアプタマーについても安定同位体標識化し、大量調製、NMR実験を行う。未使用額は、次年度の助成金と合わせてその経費に充てることにしたい。
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