研究課題
本研究はエネルギー代謝経路をターゲットとしたアフリカ睡眠病の薬剤開発を目的としており、その標的タンパク質であるシアン耐性酸化酵素(TAO)及びグリセロールリン酸化酵素(GK)の構造を阻害剤との複合体構造を含む様々な状態で明らかにすることによって、実用的な薬剤候補となる強力な阻害剤の開発を目指している。以下に本年度の成果を示す。・TAOの新規阻害剤であるフェルレノールとの複合体構造を2.7Å分解能で明らかにすることができた。フェルレノールは、アスコフラノンと比較して化学合成が容易ということで、実用的な薬剤開発が期待できる。また、フェルレノールは、TAOの膜結合領域にある疎水的なポケットに結合していることが明らかになった。さらに、二核鉄近傍に酸素分子と思われる電子密度を確認することができた。・GKとinh-7(TAOとGKの両方の酵素反応を阻害する)との複合体構造を2.9Å分解能で明らかにすることができた。inh-7は、GKのATP結合部位の近傍に結合していることがわかった。・inh-7の誘導体でTAOとGKの両方をさらに強くに阻害する化合物を見つけることができた(IC50=115 nM for TAO, IC50=87 nM for GK)。新たに見つけた化合物は、inh-7より単純な構造をしており、アスコフラノンと比較してより全合成が簡単で安価に合成できる化合物である。得られた情報を手掛かりとして、より安価な薬剤の開発を推進することができると考えている。
1: 当初の計画以上に進展している
計画としては、TAOと新規阻害剤のフェルレノールとの複合体の構造を明らかにすることを目的としていたが、2.7Å分解能で明らかにすることができた。その結果、TAOの二核鉄近傍の疎水的なポケットに結合していることがわかった。アスコフラノン誘導体との構造を比較することで、安価でさらにTAOを強力に阻害する化合物を見出すことが可能になった。GKについても計画していた阻害剤(inh-7)との複合体の構造を2.9Å分解能で明らかにすることができた。阻害剤は、ATP結合部位とは重ならない部位に結合していることがわかった。さらに、inh-7以外にもさらに強力にTAOとGKを阻害する化合物を明らかにすることができた。
①今回得られた化合物やinh-7は、立体構造や触媒する反応が全く異なる2つの酵素(TAO, GK)を阻害するので、両酵素との複合体の構造を高分解能で明らかにして、なぜこれらの化合物がTAOとGKの”bifunctional inhibitor”として働くのかを明らかにしたい。②その化合物が実際にトリパノソーマに対して効果があるのかを調べるために、共同研究を行っている東京大学・大学院医学系研究科の北潔研究室でin vivoの実験を行う。③TAOの還元型の結晶構造を明らかにすることで、TAOの反応機構を明らかにする。
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