研究課題/領域番号 |
26440038
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研究機関 | 国立研究開発法人農業生物資源研究所 |
研究代表者 |
藤本 瑞 国立研究開発法人農業生物資源研究所, 生体分子研究ユニット, 主任研究員 (20370679)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イネ / 顆粒結合型デンプン合成酵素 / アミロース / X線結晶構造解析 / 糖鎖結合複合体 |
研究実績の概要 |
顆粒結合型デンプン合成酵素I (GBSSI: granule-bound starch synthase I) は、植物デンプンのアミロース生合成に関与する生化学上重要な酵素であるとともに、穀物品種ではモチ性に関与する重要な育種標的である。GBSSIの基質認識機構をX線結晶構造解析により明らかにするため、イネのGBSSIの大腸菌による大量発現系を用いてGBSSIの調製を行い、生産物であるアミロースの部分構造を持つマルトオリゴ糖との複合体の立体構造決定を試みた。酵素とオリゴ糖の複合体は、共結晶化で作製し、結晶化条件の検討を行った。グルコース重合度4のマルトテトラオースとの共結晶化で得られた立方体結晶については、高エネルギー加速器研究機構放射光施設でX線回折像を収集し、これまでよりも高分解能である最大2.8オングストローム分解能の回折データを取得することができた。分子置換法により電子密度を計算したところ、これまで同様のドメイン閉鎖型立体構造が得られたが、マルトオリゴ糖の結合は見られなかった。また、より安定な結晶作製を目的に、アポ型構造で、構造情報が欠落しているN末端、C末端を削り込んだ変異体を作製することを試みた。しかし、N末、C末削除体ともに、大腸菌による発現の際、タンパク質が不溶化してしまった。従って、GBSSIのN末ペプチド、C末ペプチドは、立体構造上は特定の構造を持たなくても、タンパク質の安定性に寄与している可能性が示された。また、アポ型立体構造の触媒部位、N、C末部位の位置関係から、GBSSIの糖鎖認識には触媒部位とN末ペプチドの双方がかかわっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題では、顆粒結合型デンプン合成酵素I (GBSSI) と糖鎖の複合体の立体構造を決定し、酵素の糖鎖認識機構を明らかにすることを目的としているが、現在のところ、糖鎖複合体の結晶が得られておらず、構造解析まで至っていない。元々、GBSSIの結晶が分解能が伸びにくい立方晶系の結晶しか得られておらず、構造解析が困難であることに加え、酵素自体の糖鎖認識機構が全く不明であり、安定な複合体を形成することができるのかも確実には分かっていないことがある。結晶化条件の検討を、範囲を広げて進めているところであるが、現在のところ、解析を進めることができるだけの結晶が得られていない。また、発現したタンパク質自体も安定性に欠け、精製した酵素は1週間足らずで沈殿となり始めることもあり、結晶化条件の検討の前に、毎回フレッシュな酵素を調製する必要があることも、進捗を妨げる要因の一つである。研究方法をしっかり再検討する必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
糖鎖の複合体結晶作製は、これまでグルコースの重合度が3-5のマルトオリゴ糖を用いて行っていたが、N末端の特定の構造をとらないと考えられるペプチド領域が、基質の認識に関与する可能性が最近他の研究グループにより示唆されており、アポ型の構造を精査したところ、触媒部位とN末端ペプチドとの距離が重合度5のマルトペンタオースでは届かない可能性が出てきたため、共結晶では重合度のより高いオリゴ糖を用いることを検討する。タンパク質の安定化に関しては、現在のところ解決策が見出せないので、タンパク質の調製回数を増やすことを考えており、そのために大腸菌発現後の精製法の簡略化を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
タンパク質の安定発現が困難で研究の進展が予想よりも滞り、学会、研究集会などで発表する機会が持てず、旅費の使用がなかったことにより、当該助成金の次年度使用額が生じた大きな要因である。
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次年度使用額の使用計画 |
タンパク質発現調製の条件検討を重ねるための、発現ベクターや、大腸菌ホスト株の購入を行い、早い段階でタンパク質試料が安定に得られる条件を見出し、そのあとの機能解析に進みたい。
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備考 |
門間充, 岸根尚美, 藤本瑞 (2015) イネ顆粒結合型デンプン合成酵素の立体構造解析 Photon Factory Activity Report 32(B):166
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