顆粒結合型デンプン合成酵素I (GBSSI: granule-bound starch synthase I) は、植物デンプンのアミロース生合成に関与する生化学上重要な酵素であるとともに、穀物品種ではモチ性に関与する重要な育種標的である。GBSSIの基質認識機構をX線結晶構造解析により明らかにするため、イネのGBSSIの大腸菌による大量発現系を用いてGBSSIの調製を行い、生産物であるアミロースの部分構造を持つマルトオリゴ糖との複合体の立体構造決定を試みた。 結合リガンドとして、グルコースの重合度が5と7のマルトペンタオース、マルトヘプタオースを用いて、共結晶化により結晶を作製した。EG3350や硫酸アンモニウムなどを使用した複数の結晶化条件が得られ、1辺の長さが最大0.3mmのサイコロ状の結晶や、球状の結晶が得られた。高エネルギー加速器研究機構放射光施設でX線回折像を収集し、最大3.2 オングストローム分解能の回折データを取得した。いずれの結晶も同じ空間群P432に属していた。分子置換法により構造を決定したところ、GBSSIのドメイン閉鎖型立体構造が得られた。ドメインの間の窪みに電子密度の塊が見られたが、明瞭な電子密度ではなく、リガンド結合構造の構築には至らなかった。また、それを覆う位置にある173-191番目の19アミノ酸の基質結合ループの構造、N末端、C末端の10数残基もディスオーダーしており、構造情報を得ることはできなかった。 構造を安定化する必要があると判断し、共結晶化においてグルコース供与体のADPグルコースとマルトオリゴ糖との3者共結晶化を行ったところ、こちらについては期間内に結晶が全く得られなかった。3者共結晶化においては、ループ構造などに変化が起こり、従来の結晶が得られなくなった可能性が示唆されたため、目的としている複合体が得られたものと考えられた。
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