研究実績の概要 |
リゾホスファチジン酸(LPA)は特異的な産生経路で産生され、6種類のGタンパク質共役型受容体(GPCR)を介し様々な機能を発揮する新しいタイプの脂質メディエーターである。本研究者は、精巣、前立腺、精嚢などの雄性生殖器に限局して発現する機能未知のLPA産生酵素、ホスファチジン酸特異的ホスホリパーゼA1β(PA-PLA1β、別名LIPI)の遺伝子欠損(KO)マウスを作製したところ、約半数の雄のKOマウスにおいて精巣や精嚢の形成不全が認められた。本研究ではこの予備的知見を元に、LPAの雄性生殖器形成における役割を解明することを目指す。 本年度はLPA受容体の関与を明らかにするため、研究者らの所有する5種類のLPA受容体(LPA1,2,3,4,6)の各シングルKOマウスの雄性生殖器を調べた。その結果、LPA6 KOマウスのみにおいて、約半数の雄が精巣が小さくなる表現型を見出した。調べたLPA6 KOマウスにおいては精嚢の形成不全を生じる個体は見られなかった。従って少なくとも精巣においてはPA-PLA1βにより産生されたLPAがLPA6の活性化を介して器官形成に関与することがわかった。 PA-PLA1β KOマウスの雄性生殖器の表現型が約半数にしか現れない理由として、他のLPA産生経路が冗長的に機能している可能性を想定し、アミノ酸配列上でPA-PLA1βと最も近縁の酵素PA-PLA1αに着目した。PA-PLA1α KOマウスは精巣でmRNAの高い発現が見られた。本年度において、各KOマウスを交配して両酵素のダブルKOマウスを作製を進めた。しかし、これまで生まれたダブルKOマウスはPA-PLA1βシングルKOマウスと比べて雄性生殖器異常の頻度は高くない。従って、PA-PLA1αとPA-PLA1βが冗長的に機能する可能性は低いことが考えられた。
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