研究課題/領域番号 |
26440043
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
井上 飛鳥 東北大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (50525813)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脂質メディエーター / リゾホスファチジン酸 / LPA / GPCR / 雄性生殖器 / 精巣 |
研究実績の概要 |
脂質メディエーターであるリゾホスファチジン酸(LPA)は主に細胞外で特異的な産生酵素により脂質前駆体から生成され、6種類のGタンパク質共役型受容体(GPCR)を介し様々な機能を発揮する。本研究者は、LPA産生酵素ホスファチジン酸特異的ホスホリパーゼA1β(PA-PLA1β、遺伝子シンボルLIPI)の遺伝子欠損(KO)マウスが約半数の雄のKOマウスにおいて精巣や精嚢の形成不全を生じることを見出した。本研究ではこの知見を元に、LPAの雄性生殖器形成における役割の解明を目的とした。初年度(平成26年度)までにLPA6 KOマウスの一部において精巣が小さくなる異常を示すことを見出した。第二年度(平成27年度)はPA-PLA1β KOマウスおよびLPA6 KOマウスの精巣形成過程を詳細に解析した。解析する個体数を十分確保できたLPA6 KOマウスにおいては、精細管の内部に精原細胞が脱落している様子が高頻度に観察された。さらに増殖期の精原細胞のマーカーであるPCNAを用いて免疫組織染色を行ったところ、野生型マウスの精細管の断面ではPCNA陽性の精原細胞がきれいに周囲に存在していたのに対し、LPA6 KOマウスの精細管の断面ではPCNA陽性の精原細胞が少ない様子や精原細胞が全く存在しない精細管断面の様子が観察された。さらに、LPA6 KOマウスの週齢による精巣と精細管内の精原細胞の変化を観察したところ、4週齢では精巣が小さいものの精原細胞の脱落は少なく、8週齢では精巣が萎縮し精原細胞の脱落が顕著に起こり始め、16週齢では精巣が萎縮したまま精原細胞の脱落が進行していた。精巣における細胞種の役割に関する知見から、現在LPAが精細管基底部付近でPA-PLA1βにより産生され、セルトリ細胞のLPA6を活性化し、下流のG12/13シグナルを介してセルトリ細胞と精原細胞の細胞間接着を強めることで適切な精原細胞の増殖・分化・維持に寄与していると想定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LPA6 KOマウスを多数解析することにより、週齢による精原細胞の変化を組織形態と免疫組織染色により詳細に観察し、LPAシグナルが精原細胞の維持に重要であることを見出した。さらに、既知の遺伝子欠損マウスとの表現型の比較から、セルトリ細胞でLPAシグナルが機能し、セルトリ細胞と精原細胞の接着に関与するという新しい脂質メディエーターの機構が想定された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はLPA6およびPA-PLA1βの発現細胞をRNAscope(R)を用いて同定し、実際にLPAシグナルが作用しうる細胞を絞る。また、PA-PLA1β KOマウスがLPA6 KOマウスの精巣異常と同様の表現型を示すか評価する。LPA6下流で機能することが想定されるアクチン形成や細胞間接着をファロイジン染色や抗体を用いた免疫組織染色により可視化し、LPAの下流の分子メカニズムを明らかにする。
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