研究課題
受容体などの細胞膜蛋白質は、細胞内に取り込まれた後、リソソームによる分解を受けるか、あるいは膜へとリサイクリングされる。この輸送機構は、膜蛋白質の機能発現において、細胞膜上の発現量や局在を規定する重要な制御機構である。取り込まれた膜蛋白質の分解/リサイクリングの選択には、ユビキチン修飾が重要な役割を担っている。我々は昨年度までに、脱ユビキチン化酵素TRE17が、クラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin-independent endocytosis)によって細胞内に取り込まれる膜蛋白質(CIEカーゴ)を脱ユビキチン化することにより、リソソームへの輸送を抑制し、蛋白質を安定化させ膜上での発現量を増加させることを明らかにした。本年度は、TRE17と相互作用することが報告されている低分子量G蛋白質Arf6との関係について解析を行い、以下の結果を得た。TRE17をHeLa細胞に発現させると、細胞膜やチューブ様のリサイクリンエンドソームに局在がみられるが、Arf6と結合できないTRE17変異体(A6-変異体)は細胞質全体に拡散していた。またTRE17は、CIEカーゴのリソソームへの輸送を抑制するが、TRE17 A6-変異体ではこの抑制作用がみられなかった。一方で、脂質修飾ドメインをA6-変異体に付加することにより、細胞膜やエンドソーム上へA6-変異体をアンカーすると、A6-変異体でもCIEカーゴ蛋白質のリソソームへの輸送を抑制することが認められた。以上の結果より、Arf6はTRE17の細胞内局在を規定することにより、CIEカーゴ蛋白質の脱ユビキチン化を制御し、リサイクリングを促進していることが示唆される。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、脱ユビキチン化ドメインを有するTRE17に着目し、TRE17のCIEカーゴ細胞内輸送制御への関与を検証し、そのメカニズムを解明することを目的としている。昨年度は、TRE17がCIEカーゴ蛋白質を脱ユビキチン化することにより、リソソームへの輸送を抑制しリサイクリングを促進することを明らかにしている。本年度は、その分子メカニズムの解明を目指し、CIEカーゴ蛋白質の細胞内輸送において重要な役割を担う低分子量G蛋白質Arf6との関係を明らかにすることを計画していた。TRE17は、細胞内において細胞膜やチューブ様のリサイクリングエンドソームに局在し、ここでArf6やCIEカーゴ蛋白質と共局在する。我々は、Arf6と結合できないTRE17変異体(A6-変異体)を用いた解析から、Arf6がTRE17を細胞膜やリサイクリングエンドソームにリクルートすることを示唆する結果を得た。さらに、これらの構造へのTRE17のリクルートがCIEカーゴ蛋白質の脱ユビキチン化に重要であることを明らかにした。以上のように、本年度は、計画したていた研究計画をほぼ実行し、期待した研究成果を得ることができた。よって、現在までのところ本研究課題はおおむね順調に進展していると評価した。
上記のように我々は、TRE17がCIEカーゴ蛋白質を脱ユビキチン化することにより、リソソームへの移行を抑制するとともにリサイクリングを促進することを明らかにし、また、低分子量G蛋白質がTRE17を細胞膜やリサイクリングエンドソームにリクルートすることにより、CIEカーゴ蛋白質の脱ユビキチン化を制御していることを示唆する結果を得ている。一方で、TRE17のリクルートにはArf6の他にも必要な因子があることを示唆する結果を得ている。残りの1年間では、TRE17を細胞膜やエンドソームにリクルートするのに必要な他の因子を同定し、TRE17を介したCIEカーゴ蛋白質のリサイクリング制御メカニズムの解明を目指す。さらに、メカニズムの解明と平行してTRE17が関与する細胞機能を明らかにし、そのシグナル伝達経路を解明する予定である。TRE17は、CIEカーゴ蛋白質のリサイクリングを促進することにより、標的膜蛋白質の細胞膜上での発現量を調節していることが想定される。これにより、シグナル強度が変化し何らかの細胞応答を引き起こすことが考えられる。このような細胞機能を同定し、そのシグナル経路を明らかにする。また、TRE17は腫瘍形成や細胞のがん化との関連が指摘されており、TRE17による細胞機能制御が細胞のがん化を引き起こす可能性が考えられる。この点についても検討を行う。
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