我々は昨年度までに、1)脱ユビキチン化酵素TRE17が、クラスリン非依存性に細胞内に取り込まれる細胞膜蛋白質(CIEカーゴ)を脱ユビキチン化することにより、CIEカーゴのリソソームへの移行を抑制しリサイクリングを促進すること、2)その作用にはTRE17の細胞内局在が重要であること、3)低分子量G蛋白質Arf6と結合できないTRE17変異体(A6-変異体)は、細胞内の局在に異常が生じ、上記CIEカーゴリサイクリングの促進作用をもたないこと、を明らかにしてきた。これらの結果より、Arf6はTRE17の細胞内局在を規定することによりCIEカーゴの脱ユビキチン化を制御し、リサイクリングを促進していることが示唆された。 平成28年度は上記仮説の検証を第一に行ったが、予想に反し、Arf6をノックダウンした細胞においてもTRE17の細胞内局在に異常はみられず、TRE17によるCIEカーゴ蛋白質の脱ユビキチン化とリサイクリングの促進が観察された。これらの結果より、Arf6以外にTRE17の細胞内局在と機能を制御する因子の存在が示唆された。そこで、TRE17の野生型に結合し、かつTRE17 A6-変異体には結合しない因子の探索を行い、その候補となる因子を複数同定した。 また、上記解析に加え、TRE17によって細胞内輸送が調節される標的カーゴ蛋白質につて検討を行い、MHCI、CD44、CD98、CD147を同定した。これらの膜蛋白質は免疫応答や細胞の浸潤、遊走、あるいは増殖・がん化に関わっていることから、TRE17がこれら膜蛋白質の細胞膜上での量や局在を調節することにより、様々な細胞機能を制御していると考えられる。今後は、前述の結合因子によるTRE17を介したリサイクリングメカニズムの解明に加え、TRE17による細胞機能制御機構とその異常による病態の解析へと研究を発展させていく予定である。
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