研究課題/領域番号 |
26440047
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
若杉 桂輔 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (20322167)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 蛋白質 / ストレス / シグナル伝達 / 生理活性 |
研究実績の概要 |
ニューログロビン(Ngb)は神経細胞に特異的に発現しているグロビン蛋白質であり、酸化ストレスから神経細胞を保護する働きを持っている。以前、我々は、ヒトNgbが酸化ストレス下にヘテロ三量体G蛋白質αサブユニット(Gαi/o)と特異的に結合し、GDP解離阻害因子(GDI)として働くことによりGαi/oの活性を抑え、cAMP量の減少を抑制することにより細胞死を防いでいることを明らかにした。本研究では、このNgbとGαi1との蛋白質ー蛋白質間相互作用部位の特定を試みた。NgbとGαi1それぞれ単独でのX線結晶構造解析の結果をもとにNgbとGαi1の複合体構造を予測し、相互作用に重要と考えられるアミノ酸残基を推定した。そして、候補のアミノ酸を部位特異的に置換した変異体を作製し、相互作用の解析をすることにより、ヒトNgbではGlu53, Glu60, Glu118の酸性アミノ酸が、ヒトGαi1ではLys46, Lys70, Arg208, Lys209, Lys210の塩基性アミノ酸が蛋白質ー蛋白質間相互作用に重要であることが明らかになった。 さらに、ヒトNgbを神経細胞に過剰発現させると神経突起の伸長を促進するという最近の報告に着目し、我々が以前作製した細胞膜透過できしかもヒトNgbと同様な機能も持つキメラNgb蛋白質の神経突起伸長能を解析した。その結果、このキメラNgbは培地に添加しただけで神経突起を伸長させる働きを持っていることが明らかになった。さらに、細胞膜透過に重要なリジンを置換したキメラNgb変異体は神経突起の伸長を促進しなかったことから、キメラNgbは培地に添加された後、細胞膜を透過し細胞質内へ移行することにより、神経突起を伸長させると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、まず、NgbとGαi1との蛋白質ー蛋白質間相互作用部位の特定を試みた。NgbとGαi1それぞれ単独でのX線結晶構造解析の結果をもとにNgbとGαi1の複合体構造を予測し、相互作用に重要と考えられるアミノ酸残基を推定後、候補のアミノ酸を部位特異的に置換した変異体を作製し、相互作用の解析を行った。その結果、ヒトNgbではGlu53, Glu60, Glu118の酸性アミノ酸が、ヒトGαi1ではLys46, Lys70, Arg208, Lys209, Lys210の塩基性アミノ酸が相互作用に重要であることが明らかになった。この研究成果は、平成28年4月にScientific Reports (Nature Publishing Group)誌にて発表した。 さらに、ヒトNgbを神経細胞に過剰発現させると神経突起の伸長を促進するという最近の報告に着目し、我々が以前作製した細胞膜透過できしかもヒトNgbと同様な機能も持つキメラNgb蛋白質の神経突起伸長能を解析した。その結果、このキメラNgbは培地に添加しただけで神経突起を伸長させる働きを持っていることが明らかになった。さらに、細胞膜透過に重要なリジンを置換したキメラNgb変異体は神経突起の伸長を促進しなかったことから、キメラNgbは培地に添加された後、細胞膜を透過し細胞質内へ移行することにより、神経突起を伸長させると考えられる。この研究成果については、現在論文を執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
1. ヒトのアンドログロビンと結合する蛋白質の探索 最近、精巣特異的に発現しているアンドログロビン(Adgb)が発見された。Adgbはグロビンドメインとカルパイン類似ドメインとからなる巨大な蛋白質である。驚いたことに、Adgbのグロビンドメインはcircular permutated型である。本研究では、ヒトAdgbをbaitとして提示しヒト精巣cDNAライブラリーをpreyとして用いるyeast two hybrid screeningよって、ヒトAdgbと結合する分子の特定を目指す。結合する分子を特定した後、大腸菌による蛋白質の大量発現系・蛋白質精製手法を確立し、構造・機能解析を推し進める。さらに、蛋白質―蛋白質間相互作用の部位をアミノ酸レベルで明らかにするために、相互作用部位と推測されるアミノ酸残基の部位特異的アミノ酸置換体を作製し、精製蛋白質を用いた表面プラズモン共鳴装置によるin vitroでの蛋白質間相互作用の解析、及びYeast two hybrid systemによる蛋白質間相互作用の解析を行う。
2. ヒトAdgbの生理機能の探索 ヒトAdgbは、精巣内で酸化ストレスやカルシウム濃度変化などを感知して細胞内の蛋白質を特異的に切断することにより精子形成の制御に重要な働きをしているものと推測される。まず、ヒトAdgbの発現ベクターを細胞内に導入し細胞内で過剰発現させたり、siRNAを用いて発現量を減らすことにより、細胞の応答がどのように変化するかを解析する。さらに、蛋白質のサイズを小さくしたtruncated mutants、蛋白質間相互作用をできなくした部位特異的アミノ酸置換体、カルシウム結合できなくした部位特異的アミノ酸置換体を用いて、ヒトAdgb蛋白質の生理機能及びその作用機序の解明に挑む。精製蛋白質がヘムを結合するのか、どのような構造及び機能を持っているのか明らかにすることを目指す。
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