ヒトのニューログロビン(Ngb)には酸化ストレスから神経細胞を保護する働きがある。我々はヘムの両側からHisが配位したbis-His型ヒトNgbが、ヘテロ三量体G蛋白質αサブユニット(Gαi/o)と結合し、GDP解離阻害因子として働きcAMP濃度の低下を抑えることで、細胞死を抑制することを明らかにした。また、魚類Ngbには細胞保護能がないが、細胞外から細胞質内に移行する細胞膜透過能があること、他方、ヒトNgbには細胞膜透過能がないことも見い出した。さらに、魚類Ngbの細胞膜透過能に重要なモジュールM1とヒトNgbの細胞保護能に重要なモジュールM2~M4を融合し、培地に加えるだけで酸化ストレスから細胞を保護するキメラNgbの作製に成功した。本年度の研究では、ヒトNgbを過剰発現させると神経突起伸長が促進されるという最近の報告に着目し解析をした結果、キメラNgbの場合には、培地に添加しただけで神経突起の伸長が起こることが観察された。他方、ヒトNgbや魚類Ngbでは神経突起伸長の誘導は観察されず、また、細胞膜透過に重要なLysを変異させたK7A/K9A キメラNgb変異体においても観察されなかった。以上ことから、キメラNgbは細胞膜を透過し細胞質内に移行後に神経突起を伸長させることが判明した。さらに、遠位のHisをValに置換したH67V キメラNgb変異体においても神経突起の伸長が観察されたことから、片側からのみHisが配位したmono-His型Ngbにも神経突起の伸長能があることが明らかになった。mono-His型NgbはGαi/oとは結合しないことから、神経突起の伸長にはGαi/oとは異なる分子が関与していることが示唆された。また、キメラNgbの神経突起の伸長に重要な残基を解析した結果、神経突起の伸長能は細胞保護能よりも進化的に古い段階で獲得されたことが示唆された。
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