研究課題/領域番号 |
26440048
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田中 利明 東京工業大学, 生命理工学研究科, 助教 (40263446)
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研究分担者 |
高橋 秀治 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任准教授 (90447318)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 肝細胞増殖因子 / HepG2細胞 / 不可逆的増殖停止 / 遺伝子発現 / RT-PCR / 網羅的解析 / Xenograft |
研究実績の概要 |
本年度は、 HGF刺激によってHepG2 細胞が不可逆的増殖停止に至る間に発現変化する遺伝子の探索を進めた。まず、候補として考えられたOct3/4, Sox2, Klf4 の発現レベルをRT-PCR法により調べたところ、予想に反しHGF刺激により発現上昇していたため、不可逆的増殖停止の原因としては考えにくいと判断した。一方、細胞周期制御遺伝子の発現を調べ、HGF刺激後24時間でp57Kip2が発現上昇することを見出した。 次に、遺伝子発現マイクロアレイによる網羅的検討を行うため、プローブとして以下のRNAを調製した。 ①増殖中のHepG2細胞(-HGF)、②HepG2細胞/+HGF for 24h、③HepG2細胞/+HGF for 96h、④HepG2細胞/+HGF for 72h→-HGF for 48h、⑤HGF抵抗性HepG2細胞、⑥a tumour derived from Xenografted HepG2細胞/+PBS、⑦a tumour derived from Xenografted HepG2細胞/+HGF No1、⑧a tumour derived from Xenografted HepG2細胞/+HGF No2 得られたマイクロアレイのシグナルを数値化することで、各プローブ間の相関関係(類似性・相違性)の網羅的解析を行い次のことを明らかにした。 (i)①と②で発現が異なる遺伝子群が存在する。(ii) ②と③で発現が異なる遺伝子群が存在する。(iii)①と⑤は極めて類似している:HGFの存在に関係なく、増殖状態での発現遺伝子は同じである。(iv)③と④は極めて類似している:いったん不可逆的増殖停止に至った細胞はHGF刺激で発現遺伝子が変化しない。(v)⑥と⑦は極めて類似している:⑦の腫瘍へのHGF処理は効果が期待できない。(vi)⑥と⑧では僅かながら違いがある:⑧の腫瘍へのHGF処理は効果が期待される。(vii)①-⑤と⑥-⑧の間での相関は極めて低い:Xenograft により腫瘍を形成したHepG2細胞は、シャーレ上のHepG2細胞と発現遺伝子が異なっている。特に(i)と(ii) の結果より、①と③に含まれない②特異的な遺伝子群が、HepG2細胞の不可逆的増殖停止に係わると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度研究実施計画において最優先で解析すべき対象とした細胞の未分化状態制御に係わる因子(Oct3/4, Sox2, Klf4)についての解析を完了した。また、最も時間と労力を要する遺伝子発現マイクロアレイ実験についても実施し、網羅的な解析結果を得るに至ったことから、研究計画は順調に進展しているといえる。 一方、平成26年度の研究実施計画においては、HGF刺激によるHepG2細胞の不可逆的増殖停止誘導に係わる候補遺伝子 cDNA を、任意時期に発現制御できる細胞システムの構築を含めていたが実施を延期した。これは、高価な遺伝子発現マイクロアレイ実験の実施に際し、無駄のない実験を行う必要からサンプル数の調製(増加)を行う必要が生じ、研究の次段階に必要となる実験を先に行ったためである。具体的には、HepG2細胞によって免疫不全マウスに腫瘍を形成し、できた腫瘍に対してHGFを継続的に投与、これらの腫瘍から得たRNAを遺伝子発現マイクロアレイによる解析に処した。この結果、in vivo における腫瘍に対しては、HGFの作用は限定的である(効果が期待される腫瘍と期待できない腫瘍が存在する可能性がある)ことが分かってきた。この情報は、HGFによる癌細胞の不可逆的停止誘導をもとに医療展開を考える上で非常に重要となる。 なお、遺伝子発現マイクロアレイ実験は主に共同研究者により実施され、また、免疫不全マウスによる in vivo 実験は他の研究計画に不随させて実施した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、平成26年度に実施した遺伝子発現マイクロアレイの網羅的解析の結果にもとづき、①増殖中のHepG2細胞(-HGF)と③HepG2細胞/+HGF for 96h には含まれない遺伝子を、②HepG2細胞/+HGF for 24h の中から選択し、遺伝子cDNA のクローニングを行う。これらcDNAについて、HepG2細胞における過剰発現またはノックダウン実験を行い、不可逆的増殖停止との関係に迫る。また、平成26年度においては、遺伝子発現マイクロアレイによって、in vivo に形成した腫瘍のHGFに対する応答性を先行して調べたことから、in vivo 条件におけるHGFの効果についての解析も継続的に行うべきであると考えられる。これらの解析には、平成27年度に実施予定の細胞周期制御因子との関係も含められる。なお、今後、平成26年度において延期した、候補遺伝子cDNAの発現を任意時期に制御できる細胞システムの構築に取り組むと共に、速やかな計画遂行のため、このシステムを利用することなく候補遺伝子cDNAの発現を制御する方法(高効率 transient transfection 条件の検討など)の検討も行うべきであると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
H25年度末に所属研究室教授が退職となり、これに伴いH26年度初頭より新たな研究室に異動することとなった。異動先研究室では研究指導を行う学生が居ないことから、当該研究計画は研究代表者のみにより推進した。このため、H26年度実施の研究はそれ以前に購入したの物品により遂行することが可能となった。また、遺伝子発現マイクロアレイ実験については、当初計画通りに研究分担者が実施した。
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次年度使用額の使用計画 |
H26年度に行った研究経験から、H27年度の研究計画の速やかな遂行のためには研究補助を依頼することが必須と考えられた。そこで、次年度使用額により、時給1150円程度にて、20時間/週、研究補助員を雇用する。これにより、確実に研究計画を遂行する計画となっている。
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