研究課題/領域番号 |
26440049
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
白土 明子 金沢大学, 薬学系, 准教授 (90303297)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 細胞貪食 / 自然免疫 / 感染症 / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
生体内に細菌が侵入すると,宿主と細菌の両者ともが互いを感知して遺伝子発現を変更し,感染時特有の遺伝子発現レパートリーを持ち,その総和が感染症の重篤さを規定する。本研究は,細菌感染維持と病原性発揮の調節に働く細菌遺伝子の同定機能を解明するため,宿主と細菌の両者に遺伝学を適用できる大腸菌を黄色ショウジョウバエに感染するモデル系で課題に取り組んでいる。予定項目について以下の成果を得た。 1)大腸菌二成分遺伝子発現制御系の構成因子の活性化と宿主病原性の解析 細菌の情報伝達経路は,膜受容体センサーキナーゼと転写因子レスポンスレギュレーターで構成され,下流遺伝子発現を規定する。これまでに,感染状態の大腸菌でEnvZ-OmpRおよびCpxA-CpxRの2経路でこれらを形成するタンパク質のmRNAレベルの発現亢進がわかった。これらをコードする遺伝子欠損菌株の感染実験で,どちらの経路の遺伝子欠損菌株も,親菌株より宿主から速やかに排除された。それぞれの情報経路制御下に感染維持に働く遺伝子が存在すると考えられた。 2)RNA合成酵素シグマ因子の発現レベルと宿主病原性 シグマ因子はRNA合成酵素のプロモーター結合を規定するタンパク質である。大腸菌が持つ7種類のシグマ因子のうちシグマ38は宿主への感染維持と宿主傷害に働く。感染時のシグマ38の発現にある種のRNAシャペロンが必要であるとわかった。RNAシャペロンは翻訳されない低分子RNAと複合体を形成して,標的mRNAの発現レベルを正負に調節する。感染時のシグマ38はプロモーター活性化を介した転写レベルだけでなく,RNAシャペロンによる転写後調節も受けて宿主感染と病原性を担うと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究計画では,宿主内で活性化して病原性を調節する二成分制御系の情報と,感染時のシグマ因子の発現と病原性調節との関わりを調べることを目標に挙げた。前者では,2種類の異なる遺伝子発現情報経路が,それぞれ活性化し,しかし宿主への病原性発揮に逆の働きを示すことを見出した。これは,宿主感染時の大腸菌で,複数の情報経路に入力が行われ,それぞれの活性総和が感染症を調節する可能性を意味する。また,後者では,感染時に発現亢進して感染維持と宿主傷害に働く,RNA合成酵素シグマ因子の発現が転写後調節も受けることを見出した。自己点検では,いずれも当初の目標を十分に満たしており,次年度は実施計画に基づき開始することができる。以上より,研究目的はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの研究は目標通りに推敲されてきたことから,今後は,大腸菌が宿主の免疫回避や宿主への傷害性を発揮するために働く,実行因子の遺伝子を見出すことを主眼におく。二成分制御系因子の解析では,上述した2経路に制御される遺伝子候補群をデータベース等を利用して絞り込み,遺伝子発現レベル変化解析と変異菌株感染実験を駆使して目標達成を目指す。シグマ因子については,感染時のシグマ因子発現を制御するRNAシャペロンおよび非翻訳性RNAの同定とその機能解析を,タンパク質レベルの解析と,変異菌株と変異体宿主を利用した感染実験を利用して取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に遺伝子発現解析を集中的に行うための試薬類および小器具類が必要であるため。
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次年度使用額の使用計画 |
細菌と宿主の遺伝子発現,組織解析のための酵素類,検出試薬類,小器具類の購入に充てる予定である,
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