研究課題
宿主に細菌が侵入すると,宿主は細菌物質を感知して遺伝子発現を変化させ,免疫を発動する。この時には,細菌も宿主環境を感知して,遺伝子発現を変化させており,免疫の回避や宿主内での感染維持,宿主への傷害性を発揮するとわかってきている。本研究は,細菌感染時に発現変動する遺伝子の中に,細菌の免疫回避や宿主傷害の調節に働く遺伝学を同定し,当該遺伝子を活性化する宿主因子,そして感染と傷害性の調節機構の解明を目的とした解析を行っている。予定項目について以下の結果が得られた。1)細菌二成分制御系による宿主病原性の調節膜受容体と転写因子とで構成される二成分制御系のなかで,EnvZ-OmpRおよびCpxA-CpxRによる宿主傷害調節機構の候補を解析した。抗菌ペプチドを産生して抗菌作用を発揮する液性経路のImd経路を抑制した宿主を利用した感染実験を行うと,宿主傷害への性質は保持されたことから,どちらの系も宿主液性経路を必要とせず作用を発揮すると考えられた。このうち,OmpRに制御される遺伝子群のスクリーニングを遺伝子欠損菌株を用いて行ったところ,EnvZ-OmpR系欠損菌株と同じ表現型を示す菌株が得られ,その欠損遺伝子が実行因子候補に挙げられた。2)RNA合成酵素シグマ因子による貪食殺菌の抑制シグマ因子のうちシグマ38が感染時に発現亢進して貪食殺菌を抑制し,いずれかのRNAシャペロンを必要とすると示してきた。このうち,Hfqと呼ばれるRNAシャペロンタンパク質がシグマ38の発現に必要であるとわかった。さらに,Hfqはシグマ38のプロモーター活性には影響せず,しかし,シグマ38のタンパク質レベルを正に調節したことから,Hfqはシグマ38を転写後調節して感染時の発現レベルを高めると考えられた。また,Hfqによるシグマ38発現レベル調節に関連する情報経路候補が挙げられた。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度以降の計画として,二成分制御系による宿主傷害性調節機構とシグマ因子による貪食殺菌抑制を担う情報経路をあげた。前者については,EnvZ-OmpRの制御遺伝子群の中から,この経路の作用発揮を担う実行因子候補が得られた。後者については,シグマ38の発現亢進が転写後調節であること,その調節に関わるRNAシャペロンを見出した。以上より,本研究は計画通りに遂行され,期待する成果が得られていると評価した。
これまでの研究成果に基づき,次年度は,EnvZ-OmpRに制御を受ける遺伝子群のうち,ompC遺伝子および他の候補遺伝子が,EnvZ-OmpRの感染時の働きを担う実行因子であるかどうかを,遺伝学的な手法で明らかにする。CpxA-CpxRの制御下遺伝子についても,遺伝子変異菌株を用いた解析により,実行因子の同定をめざす。見出された実行因子による宿主傷害性調節機構を明らかにするために,宿主遺伝子の変異体を利用した感染実験,および遺伝子の網羅的解析により,宿主側因子を同定する。そして,宿主因子が感染時に自身の傷害性におよぼす影響を調べる。シグマ38の発現亢進機構については,シグマ38制御性低分子RNA群の中から,感染時にHfqとともに働く種類を見出す。そして,当該低分子量RNAの発現を調節する細菌の情報経路を遺伝子欠損菌株も利用して同定する。
すべて 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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www.p.kanazawa-u.ac.jp