研究課題
本研究では、N型糖鎖によるErbB受容体の機能制御メカニズムを明らかにし、がん治療に応用可能な新しい糖鎖改変・可溶型ErbBの開発を行うことを目標としている。これまでにEGFRやErbB3のドメインIIIの特定の糖鎖が二量体形成に関与していること、またその糖鎖を欠損したErbB3の細胞外ドメイン(可溶型ErbB3)ではヘレグリンシグナル抑制作用が増強することを明らかにしている。平成26年度の研究では、ErbB3に続いてEGFRにおいても同様な現象が観察されることを明らかにしたほか、可溶型ErbB糖鎖欠損変異体のシグナル抑制作用の増強がどのようなメカニズムによるものかを検討した。まず、可溶型EGFR糖鎖欠損変異体のEGFシグナル抑制作用についてであるが、ドメインIIIのAsn420に結合する糖鎖を欠損させたところ、EGFシグナル抑制作用が著しく増強することが分かった。この際、可溶型EGFRはリガンド側ではなく、受容体側に作用してシグナルを抑制していることが示唆された。これは、可溶型ErbB3のシグナル抑制作用メカニズムと類似している。次に、糖鎖の改変が可溶型ErbBの物性に与える影響を検討した。北海道大学先端生命科学研究院先端融合科学部門・X線構造生物学講座 姚閔先生、加藤公児先生との共同研究によって、可溶型ErbB3のX線結晶構造解析と示差走査熱量測定を行ったところ、糖鎖欠損変異体では立体構造は野生型と変化ないが、熱安定性が低下しており、構造変化を起こしやすいことが明らかになった。以上の結果より、糖鎖改変・可溶型ErbBは、立体構造変化を起こしやすくなるために二量体形成を容易におこすこと、膜上の受容体とヘテロダイマーを形成することによってシグナル抑制作用を示すことが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では、平成26年度はErbB4の各N型糖鎖の構造と機能を決定する予定であった。ErbB4の11カ所の糖鎖結合ポテンシャル部位のうち、9カ所について糖鎖の構造を決定することができた。また、11カ所の糖鎖欠損変異体の安定発現細胞を確立し、ヘレグリンシグナルを解析する予定であったが、受容体の発現量が安定せず、データを得るまで至らなかった。そこで今回は、可溶型EGFR糖鎖欠損変異体のEGFシグナル抑制作用を評価する実験を先に行った。また、ErbB3の糖鎖欠損による物性変化について、X線結晶構造解析と示差走査熱量測定で結果を得ることができた。全長ErbB4と全長ErbB2の糖鎖欠損変異体の機能解析については平成27年度以降に行い、多量体形成に関与する糖鎖が存在する場合、可溶型ErbB4、ErbB2の糖鎖欠損変異体についてシグナル抑制作用を検討するという計画に変更した。実験の順番を変更したが、当初の計画以上の結果が得られたため、達成度は高いと考えた。
平成27年度は、可溶型EGFR糖鎖欠損変異体についてX線結晶構造解析と示差走査熱量測定を行い、糖鎖の改変が可溶型EGFRの物性に与える影響を明らかにする。そのために、リコンビナント可溶型EGFRの収量の改善を試みる。具体的には、pEE14発現ベクターを用いる系や、現行pcDNA5ベクターを用いる系でも培地や回収スケジュールを詳細に検討することによって効率のよい大量発現システム・大量精製システムを確立する。その他、ErbB2とErbB4の糖鎖の構造解析と、機能解析を行う。予備実験では可溶型ErbB2発現細胞を確立するまで至らず、改良が必要であることが分かった。また、全長ErbB2、全長ErbB4の機能解析も、安定発現細胞の作製について改良が必要であることが分かった。これらのポイントを解決しつつ、最終的にはErbB受容体の4つのメンバー全てのN型糖鎖の構造と機能を明らかにする。また、その情報を元に、がん治療に応用可能な新しい糖鎖改変・可溶型ErbBの開発を行いたい。
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