研究課題
本研究では、N型糖鎖によるErbB受容体の機能制御メカニズムを明らかにし、がん治療に応用可能な新しい糖鎖改変・可溶型ErbBの開発を行うことを目標としている。これまでにEGFRやErbB3のドメインIIIの特定の糖鎖が二量体形成に関与していること、またその糖鎖を欠損したErbB3の細胞外ドメイン(可溶型ErbB3)や、可溶型EGFRではシグナル抑制作用が増強することを明らかにしている。また、北海道大学先端生命科学研究院 姚閔先生、加藤公児先生との共同研究で、可溶型ErbB3のX線結晶構造解析と示差走査熱量測定を行い、糖鎖欠損変異体では熱安定性が低下しており、構造変化を起こしやすいことを示した。平成27年度の研究では、糖鎖の改変が可溶型EGFRの物理化学的性質に与える影響をさらに検討するため、可溶型EGFRの大量精製法の開発に取り組んだ。従来の方法ではFlp-Inシステムを用いており、発現量は安定しているが培養上清1リットル当たり0.016 g程度であり、X線結晶構造解析や示差走査熱量測定に用いるためには培養上清が100リットルは必要となる計算であった。今回、様々な条件を検討した結果、発現ベクターを変えることによって、発現効率をおよそ120倍に上げることに成功した。効率のよい大量発現システム・大量精製システムを確立することができたため、立体構造のみならず、立体構造の変化のしやすさの違いを観察する基礎をつくることができた。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では、平成27年度はErbB2およびErbB4の糖鎖欠損変異体の解析をする予定であったが、平成26年度で可溶型ErbB3のX線結晶構造解析と示差走査熱量測定の結果を得ることができたため、計画を変更して可溶型EGFRの糖鎖欠損変異体の物理化学的性質の解析を先に行うことにした。この実験のためにはタンパク質の量の確保が重要であり、可溶型EGFRの大量精製法の開発を行ったところ、概要にも述べたとおり、精製効率を従来の120倍にあげることができた。重要なのは、この技術は他の膜タンパク質すべてに応用可能であることである。当初の計画の、全長ErbB4と全長ErbB2の糖鎖欠損変異体の機能解析については平成28年度以降に行い、今回の技術を応用して可溶型ErbB4、ErbB2の物理化学的性質を検討するという計画に変更した。今後の研究のために非常に重要な技術を開発できたので、達成度は高いと考えた。
平成28年度は、可溶型EGFR糖鎖欠損変異体についてX線結晶構造解析と示差走査熱量測定を行い、糖鎖の改変が可溶型EGFRの物性に与える影響を明らかにする。すでに野生型のタンパク質は大量に得ることができたほか、変異型のタンパク質も現在クローンが得られた状態であり、タンパク質の調製は問題ないと考えている。また、物性の解析も、可溶性ErbB3ですでに遂行可能であることを確認している。その他、可溶型EGFR同士の相互作用、あるいは可溶型EGFRのflexibilityの指標などを検討したいと考えている。その他、ErbB2とErbB4の糖鎖の構造解析と、機能解析を行う。これらについては、安定発現細胞の作製法に課題があることがわかっており、改良が必要である。これらのポイントを解決しつつ、最終的にはErbB受容体の4つのメンバー全てのN型糖鎖の構造と機能を明らかにする。また、その情報を元に、がん治療に応用可能な新しい糖鎖改変・可溶型ErbBの開発を行いたい。
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