研究課題
浸潤突起は,がん細胞が形成するアクチン細胞骨格に富む細胞外基質 (ECM) を分解する活性を有する細胞膜の微細な突起状構造で,がん細胞の浸潤・転移において重要な役割を果たすと考えられている。MT1-MMPと呼ばれる膜結合型タンパク質分解酵素は浸潤突起におけるECM分解を担う主要な因子で,細胞内小胞輸送の複数の経路により浸潤突起に運ばれると考えられている。しかしながら,その分子機構の詳細は未解明の点が多く残されている。本研究では,浸潤突起形成とMT1-MMPの浸潤突起への輸送に関わる膜融合タンパク質SNAREを網羅的に同定し,それらSNARE分子とその制御因子が浸潤突起形成に果たす役割を分子レベルで明らかにすることを目指す。浸潤突起の形成とMT1-MMPの浸潤突起への輸送については,高い浸潤転移能をもつ乳がん細胞株MDA-MB-231において,v-SNAREの一つであるVAMP7が極めて重要な因子として機能していることが報告されているが (Steffen et al., 2008),その他のSNAREについてはこれまで十分明らかになっていなかった。我々は,昨年までに, MDA-MB-231細胞において発現している35種のSNAREについて,それらのドミナントネガティブ変異体を作製し,浸潤突起の形成とMT1-MMPの輸送に関与するSNAREを同定した。それらSNAREを発現抑制すると,浸潤突起の局在するMT1-MMP量の減少とMT1-MMP陽性エンドソームの肥大化が認められた。これらのことから,我々が同定したSNAREはMT1-MMPの浸潤突起への輸送に直接または間接に関与していることが示唆された。さらに,これらSNAREの複合体形成が,浸潤性がん細胞と非浸潤性がん細胞では異なる可能性を見出した。現在その点について詳細な解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
予定通り,ドミナントネガティブ変異体の過剰発現により浸潤突起形成に関わるSNAREを多数同定し,その分子メカニズムの解明に着手できているので。
上述の通り,浸潤性と非浸潤性がん細胞において,これまでに同定したSNAREが異なる複合体を形成している可能性を明らかにし,さらに,その制御機構について解析を進める。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件)
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