研究課題
私達はこれまでにショウジョウバエを用いて、細菌の感染によって宿主の糖鎖修飾が変化し、その変化が自然免疫反応の適切な活性化に重要であることを報告してきた。本研究では、その糖鎖が変化するメカニズムを解明することを目的としている。感染による糖鎖の変化については、例えばインフルエンザウイルスの持つ酵素が宿主の糖鎖構造を改変するように、細菌由来の蛋白質が直接の原因となる例が知られている。しかし私達が見つけた糖鎖の変化はこれとは異なり、宿主自身の自然免疫反応の活性化によって誘導されることを既に明らかにしている。つまり自然免疫反応の活性化により、糖鎖の合成系および分解系が亢進している、または減弱していると考えられる。私達はまず合成系について、検討を行った。糖鎖の合成には、その糖鎖の基質となる糖核酸とその輸送体、蛋白質に糖鎖を転移する糖転移酵素の3つが必要である。私達はこの糖鎖の合成に関わるSenjuという糖核酸輸送体の発現量や局在が、細菌の感染によって変化するかどうか検討を行った。その結果、この糖核酸輸送体自体の発現量や細胞内での局在には変化がないことが明らかとなった。一方、この糖鎖を合成する糖転移酵素についてはまだその分子的実態が明らかでなく、感染時の動態を検討することができない。そこで自然免疫反応に関わる糖鎖を合成する糖転移酵素を同定するための網羅的スクリーニングを行い、現在候補となる3種類の遺伝子を得ることに成功している。また糖鎖の分解系については、この糖鎖を分解する活性を持つと考えられるガラクトシダーゼに着目して解析を行った。ショウジョウバエでは3種類のガラクトシダーゼ分子が知られているが、少なくともそのうちのひとつの変異体では、感染時の糖鎖の変化が起こらないことを見出した。この結果は、分解系が感染時の糖鎖の変化に関与していることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
感染時に起こる糖鎖変化のメカニズムについて、糖鎖分解系の関与を示すことができた。また合成系の関与を検討するために、合成を司る分子をほぼ同定することができ、トランスジェニックフライや抗体の作成に着手することができている。以上より、感染時にこれらの分子がどのようにして糖鎖を変化させることができるのか、詳細なメカニズム解析を来年度以降に行うための準備を整えることができた。
研究目的の一つであった、感染によって糖鎖が変化するメカニズムについては、その糖鎖を合成する酵素を同定し、感染時の発現変動や細胞内局在について、検討を行う予定である。また今回、分解系の関与を示唆することができたので、なぜ感染によって(あるいは自然免疫反応の活性化によって)分解系の酵素が活性化するのか、明らかにする。具体的には、発現量や細胞外への分泌量の測定、さらに活性の測定を予定している。また今回関与が示唆された分解酵素以外の酵素についても、感染時の糖鎖変化に影響を与えている可能性について引き続いて検討を行う。もう一つの研究目的である、哺乳動物でこのメカニズムが保存されているかどうかについても着手する予定である。まずはマウス骨髄由来樹状細胞にLPSなどで感染刺激を与えた場合に糖鎖の変化が起こるかどうかについて、検討を行う。
今年度新しく見出した、自然免疫に関わる糖転移酵素の抗体を、業者に委託して作成しているが、この作成に時間がかかっているため、その支払いが次年度に繰り越された。
残額は次年度分とあわせ、主に消耗品費、その他(抗体作成委託、解析委託)に割り当てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻: 112 ページ: 印刷中
10.1073/pnas.1424514112
Genes to Cells
巻: 20 ページ: 印刷中
10.1111/gtc.12246
Glycoscience: Biology and Medicine
巻: - ページ: 1, 5
10.1007/978-4-431-54836-2_48-1
http://goto-lab.net/