私達はこれまでにショウジョウバエを用いて、細菌の感染によって宿主の糖鎖修飾が変化し、その変化が自然免疫反応の適切な活性化に重要であることを報告してきた。本研究ではその糖鎖が変化するメカニズムを解明するとともに、このような自然免疫の糖鎖による制御が、脊椎動物でも保存されているかどうかを検討することを目的とした。 グリコサミノグリカンは、これまで発生や細胞分化に重要な役割を果たしていることが明らかになっている糖鎖であるが、私達はこの糖鎖が自然免疫を制御していることを見出した。グリコサミノグリカンが自然免疫反応に関わっていることは、本研究によって初めて明らかになった。この糖鎖は複数の糖転移酵素とそれを修飾する硫酸基転移酵素などの修飾酵素が順番に働いて合成される。発生や細胞の分化では、この修飾が重要であることが報告されているが、自然免疫におけるグリコサミノグリカンは、修飾ではなくその長さによって免疫反応の強さを調節していることをつきとめた。そしてその長さは、botvという糖転移酵素の発現量によって制御されている可能性を示した。即ち、感染によってbotvの転写量は約半分にまで抑制され、その結果として糖鎖が短鎖化して自然免疫の活性化に寄与していることが示唆された。これは当初明らかにすることを目的としていた、糖鎖が変化するメカニズムの一つであると考えられる。 脊椎動物における検討に関しては、ショウジョウバエで自然免疫を制御していることがすでに明らかとなっている糖鎖修飾関連分子senjuのゼブラフィッシュホモログの変異体を作成して、ショウジョウバエ変異体と同様に定常時でも自然免疫が活性化しているかどうか、検討を行った。自然免疫活性化の指標として炎症性サイトカインの発現を調べたが、残念ながらゼブラフィッシュ変異体では自然免疫の活性化は認められなかった。
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